サッカー選手が個人スポンサー契約を結ぶことはある。オフには、海外のスター選手が来日し契約を結ぶ企業のイベントに出ている。この夏も厶バッペ、ビニシウスなどが日本までやって来た。ただ、これはどれもピッチ外のビジネスの話。企業からの破格のオファーを受け、その企業、商品のイメージアップに一役買う形だ。

この夏、日本人選手が続々と海を渡っている。海外組の急増。日本の若手が高く評価される中、米国に、30歳を超えて海を渡った一風変わったプロ選手がいる。

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メジャーリーグサッカー(MLS)下部のオレンジカウンティSCに所属するMF橋本晃司(33)。海外組の1人として、2シーズン目の挑戦を続けている。西海岸を拠点に、異例の個人スポンサーの後押しを受けてクラブとの契約を勝ち取り、選手として戦い続ける

明大から名古屋グランパス入りし、水戸ホーリーホック、大宮アルディージャ、川崎フロンターレでプレーした元Jリーガーは今、米国で生き生きと、戦っている。

昨年3月、移籍に際し、自らスポンサーを連れて売り込み、契約を勝ち取るたくましさを発揮した。きっかけは親友「本田」の助言だった。

「非常に物価が高い土地で、家族全員が、クラブからの給料だけで生活するのは少し大変かもしれないという話がありました。そんな時、本田から『せっかく行くのであれば家族で行った方がいい』という意見をもらったこと、その中で、幸いなことに、僕のまわりには素晴らしい方々がいて、相談に乗ってもらったところ『チームへのスポンサーをする事でうまくいくのではないか、挑戦を支えたい』という熱い意見をもらいました」

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「本田」とは本田圭佑。2人は石川の強豪・星稜高の同級生で大親友。本田はオレンジカウンティSCに、17年12月から経営参画。橋本の挑戦に共鳴し、アドバイスした。

海外生活が長い本田もフェンロ(オランダ)、モスクワ(ロシア)、ミラノ(イタリア)、パチューカ(メキシコ)、メルボルン(オーストラリア)と全ての移籍先に家族とともに行き、明日なき戦いを続けてきただけに、説得力がある。

米国は広い。30代で初めての海外生活。家族、クラブとスポンサーの期待も背負い、もともとふてぶてしくもあり、たくましかった橋本も、一層大人になった。「移動時間、距離、標高、天候、国内移動でも時差があり、アウェーは非常にタフで驚きました。試合も野球のスタジアムだったり、ゴール裏にDJがいて、まわりでお酒を飲んで盛り上がるファンがいるところがあったり、その土地その土地で特徴的。とにかくいろいろな人種がプレーしているので、フィジカル、テクニック両方で、今まで対戦したことのないようなタイプの選手と多くプレーすることができました。日本では経験できないですし、僕にとって財産。自分自身が、以前より少しタフになったのではないか、成長したかなと思います」

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サッカーにおいて、ファン、サポーターは12番目の選手といわれる。プロとしてその期待に応え、結果を出すことに加え、橋本は個人スポンサーに対する責任も背負っている。スポンサーは1年目の2社から5社(株式会社大真、株式会社シーレ、株式会社LOHASTYLE、株式会社bigones、焼肉ポンガ)に増えた。業種も所在地もさまざまだが、橋本の思いをバックアップしたいという願いは同じ。株式会社シーレの白岩克也代表取締役は「新たなサポートの仕方で選手を応援できるチャンスだと思った」とその理由を語る。

橋本は「僕にとって、とても心強い存在です。昨年はリーグ戦を1位で終え、西地区プレーオフ決勝でドログバ率いるチームに敗れましたが、もっともっと活躍することが恩返しにつながると思っています」と、より一層プロフェッショナルであることを自らに課す。

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周囲の力も借り、道を切り開き1年目は優勝も経験した。米国で2年目。たくましく生き抜くことで、6月末には、久しぶりに本田と同じピッチに立つこともできた。

クラブに練習参加した本田とともにボールを蹴った。この時、「モチベーションを上げてもらいました」と星稜高時代の懐かしい2ショットと、現在の2ショットをインスタグラムにアップした。

本田との関係について聞くと、こんな答えが返ってきた。「本田は親友であり、サッカー選手として、1人の男として尊敬できる、僕にとって貴重な存在です。何かあると、アドバイスを求めたりもするし、彼の活躍を見ると刺激をもらうし、こちらも頑張らないとと思います。こういう存在はなかなかいないと思います。アメリカ挑戦を最初に相談したのも彼でしたし、本当に感謝しています」

アメリカには夢があるという。だが、プロの世界はそんなに甘いものではない。橋本はスポンサーを探し、後押しを得てピッチに立つ。その後押しが球際のあと1歩、1センチ、1ミリになり、1人のサッカー選手が30歳でなお、生まれ変わりつつある。家族をはじめ、たくさんの人の支えもあり、夢をつかむため戦い続けている。【八反誠】