初音ミクとの異次元コラボでメダル獲得へ-。東京五輪のアーティスティックスイミング(AS)日本代表が9日、都内で公開練習を行った。井村雅代ヘッドコーチ(HC、69)と五輪代表内定のエース乾友紀子ら8人が登場。デュエットテクニカルルーティン(TR)では人気バーチャル歌手、ボーカロイド「初音ミク」の歌声を入れて、新しい日本らしさをアピールする。スパルタ指導の「メダル請負人」、名伯楽が思い切った挑戦に打って出る。

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井村HCが、大胆なチャレンジに向かう。東京五輪用のルーティンを発表した9日、デュエットTRに日本が誇るボーカロイド、初音ミクの“起用”を明かした。

井村HC 初音ミクの声を入れます。使うなら、今しかない。日本らしさ。日本のアニメはすごいし、人気者の彼女に出てほしい。

デュエットTRは、東京五輪で最初の種目。昨年と同じく、くノ一をテーマにした「忍者SAKURA」とした。その冒頭で初音ミクが「さくら~、さくら~、弥生の空は~」と歌う。さらに演技の要所要所で「さくら~」の声が響くという。百戦錬磨の井村HCは「初音ミクを知っていたのか?」と質問され「知ってますよ!」と胸を張った。

昨年は初音ミク×歌舞伎役者中村獅童の共演舞台も観劇した。エース乾は、初音ミクに「最初に聞いた時はテンションが上がった。みんなが知っている初音ミク。まさか、取り入れるとは」と驚いた。

きっかけがあった。世界最強ロシアは昨年、東京五輪を見据えたルーティンを投入。ロシアが考えた「日本らしさ」は、観光客が詰めかける渋谷のスクランブル交差点だった。井村ヘッドは「ふ~ん。もっといい日本らしさがあるけどね」と口にしていたが、昨夏の世界選手権でロシア、中国、ウクライナに次ぐ世界4位と敗北。「そのままでは嫌だから、何か変えようと思った」。大きくかじをきって、初音ミクを選択した。

新ルーティンも導入する。デュエットFRはダンスミュージック調の「進化~エボリューション」で、チームTRは「空手2020」で新作2つとなった。井村HCは「世界の評価を変えていく仕事がある。守りじゃないからいい。開催国なら、大変身してもおかしくない」。ホームの大声援も味方につけ、初音ミクとともに、逆転メダルをとりにいく。【益田一弘】

◆初音ミク(はつね・みく) 07年発売の音声合成ソフトのイメージキャラクターで実在しない仮想アイドル歌手。設定は生年月日不明の16歳女性。アイドルポップス、ダンス系ポップス、アニメソングなどが得意。チャーミングで伸びやかな高音域から、清楚(せいそ)でかれんな中高音域が魅力。アニメやゲームなどにも登場する。10年5月には、人気の楽曲を集めたアルバムがオリコン週間アルバムチャートで1位になった。158センチ、42キロ。

<日本代表の名演技>

◆夜叉(やしゃ)の舞 94年世界選手権ローマ大会ソロFRで奥野史子が使用。女性の情念や怒りを表現して、銀を獲得。シンクロ表現の新境地を切り開いた。

◆空手 00年シドニー五輪チームTRで使用。入水前の冒頭から空手の動作を取り入れた。TR終了時で、首位ロシアに0・070点差の2位につけた。危機感を覚えたロシアは五輪直前に、デュエットで空手をまねする一幕もあった。

◆火の鳥 00年シドニー五輪チームFRで使用。手塚治虫の漫画「火の鳥・未来編」がテーマ。「昇竜(しょうりゅう)の波」と命名された8人の足が連鎖するウエーブなどで銀獲得。