スピードスケート女子で18年平昌五輪500メートル金メダリストの小平奈緒(35=相沢病院)が現役引退を表明した。 12日に長野県内で会見を行い、「私、小平奈緒は今年10月の全日本距離別選手権の500メートルを競技人生のラストレースとすることを決意しましたことをご報告させていただきます」と述べた。

【写真特集】小平奈緒が現役引退を表明 平昌500金、1000銀 バンクーバー団体追い抜き銀>>

小平が「氷上の哲学者」と呼ばれるゆえんを、ワールドカップ(W杯)開催地のカナダ・カルガリーで目の当たりにした。オミクロン株が世界に広がり始めた昨年12月。日本から渡航した担当記者は私だけだった。貴重な機会。北京オリンピック(五輪)前最後の実戦を終えた小平に「社会の中でスポーツはどうあるべきか」という問いを投げかけた。

「トップアスリートであっても常に社会と関わっていたい」。女王はそう答えた。平昌五輪で金メダリストになった直後から「五輪チャンピオン然としなければならない」という脅迫観念に駆られた。常に世間に見られているー。本来の自分を見失いかけた。その過剰意識を払拭してくれたのが、地元社会との関わりだった。

千曲川氾濫の被災地で行った災害ボランティアが、小平自らつくりあげた社会との壁を取っ払ってくれた。金メダリストからまた、普通の人間に戻れた瞬間だった。

最後の五輪を前に哲学者はもうひとつ達観した。「もう国と国との競争じゃない」。W杯カルガリー大会では、北京五輪で金メダルを争うはずの米国選手から「ゴーNAO!」と声援が飛んだ。「これなんですよ。米国の選手はすごい」。スポーツは国境を超え社会をひとつにする。小平はスピードスケートを通じそれを肌で感じた。だから「スポーツがもっと社会に関わり、還元していけるようになれれば」と記者に話した。引退後、その哲学を日本のみならず世界のスポーツ界に広げていくことを期待している。【三須一紀】