カズ次男に完敗した元ホストYUSHIが語った かませ犬批判、キングの神対応…異色対決の内幕

なぜスポーツはこうも人の心を揺さぶるのか。その答えがここにある…日刊スポーツが贈る珠玉の物語。

「元ホスト」という肩書とともに、昨年大みそかにRIZINの舞台に立った格闘家がいます。YUSHI(ユーシ)、33歳。対戦相手はサッカー界のキング、元日本代表FWカズ(三浦知良)の次男孝太でした。完敗したイケメンがリング上、そしてリングをおりた後で、見たものは-。これまでの歩みととともに、YUSHIの生きざまに迫ります。

ストーリーズ

勝部晃多


ホストと聞くと何を思い浮かべるだろう-。

テレビ番組でも大人気の「ホスト界の帝王」、ROLANDをはじめ、まず「華やかな夜の世界」などをイメージする人が多いのではないか。

個性豊かで巧みな話術。そして何と言っても、端正な容姿。女性ファンはもちろん、男性からもうらやまれるそのルックスは、いわば商売道具である。

そんなホストの“魂”を傷つけられる可能性が高い総合格闘技(MMA)の舞台に甘いマスクの元ホスト、YUSHI(ユーシ)が立っていた。

それも、格闘家なら誰もが憧れる2万人超えの夢舞台に-。

エリート家系の道外れホスト神セブンに

2021年12月31日。MMAイベントのRIZIN大みそか大会。第1試合の開始は午後2時01分。「元ホスト」の肩書で注目された男が、サッカー元日本代表でJFL鈴鹿ポイントゲッターズ入りしたレジェンド、カズ(三浦知良、54)の次男三浦孝太(19=BRAVE)のMMAデビュー戦の対戦相手として姿を現した。

今でもホストクラブのオーナー。リングネームも、ホスト時代の「櫻遊志」と共通点がある「YUSHI」。今も、美容面でも「かっこいい男」を探求している。売名行為なのか? 三浦に花を持たせるための、かませ犬なのか? いや、本人は大真面目だった。「人生の厳しさを教えてあげられるような試合をする。アグレッシブに攻めて早い段階でKOしたい」と意気込んでリングに上がった。

21年12月30日、公開計量を行った三浦孝太(左)とYUSHI

21年12月30日、公開計量を行った三浦孝太(左)とYUSHI

YUSHIは、開幕の緊張感に包まれていた会場を、鍛え上げた肉体と、堂々とした姿、そしてスター然といった演出で、あっという間に自分色に染め上げた。まっさらなマットに踊るようにリングイン。なぜ、元ホストがRIZINの舞台に立ったのか。それは、YUSHI自身も、たった数週間前まで予想だにしない光景だった。

物語は大みそかの3週間前にさかのぼる。「大みそか、いけるか?」。突如届いた、RIZIN関係者からの問い合わせ。三浦の相手に決まっていたブラジル人選手が、政府の新型コロナ感染拡大による外国人の入国禁止措置を受け、来日できなくなった。代役のオファーだった。

「やりたいです」。そう返答したが、まず胸の中に沸き起こった感情は、大舞台に立つことができる喜びではなく、「信じられない」といった驚きだった。

高校生の頃、半年間ほど、週2日で格闘技のジムに通った経験がある。ホスト時代は、同業者が集う地下格闘技大会の「宴(うたげ)」で8戦7勝。軽量級のチャンピオンになったこともあった。

それでも、本格的にMMAの練習を始めたのはここ1年のこと。試合が正式決定した1週間後も、「本当なのか?」と疑いの念は晴れなかった。

だが、思い起こせば、いつも道を切り開いてきたのは自分自身だった。

団体とのつながりも、「RIZINに出たいです」とSNSで発信したことがきっかけだった。「自分には背負っているものがある」。華やかなホストには、およそ似つかわしくない、決死の覚悟があった。

ホスト時代のYUSHI(本人提供)

ホスト時代のYUSHI(本人提供)

恵まれたエリート一族といっていいだろう。祖父が産婦人科医、両親がドクターと、医師の家系に長男として生まれた。幼稚園の頃から、母につきっきりで勉強を教えられる毎日を過ごした。文武両道。スキー選手だった父からは、3歳の時からアルペンスキーの英才教育を受けた。週末は長野の別荘から、スキー場へ練習に通った。そして勉強も。両親の期待は大きかった。

小学校の卒業文集に書いた将来の夢は、当然のように「お医者さんになる」。だが、親の敷いたレールの上を走ってきた御曹司は、壁にぶつかったとき、自分を表現する手だてを、まだ知らなかった。

勉強したのに、結果を残せない日々。私立の中学に通うようになると、自身の中で何かがはじけた。

「俺は医者にはならねえ!」と、不良グループの一員に。「やりたいことをやる」と息巻いていたが、高校入学後も、その「やりたいこと」を見つけ出すことすら、できなかった。

転機は、「なんとなく入った」という大学での出来事だった。

「ホストにならないか?」というクラスメートからの誘いだった。最初は遊び感覚で始めたが、自分のやりたいことに出会えた気がした。お酒が飲めないため、客に暴言を吐かれて傷つくこともあったが、「頑張れば、頑張った分だけ成果として返ってくる」。弱肉強食、プロ意識が高く、成り上がっていく先輩たちを見ながら、そんなホストの魅力に熱中していった。

1~2年間は、厳格な両親からは、口もきいてもらえなかった。そんな状況も、自身の手で変えてみせた。「それまではずっと親のすねをかじってきました。だけど、ホストになって初めて1人暮らしを経験して、身の回りのことはすべて自分でやるようになりました」。独り立ちした姿を見せることで、安心させようと努力を重ねた。気づけば、月間最高売り上げは1500万円を超えていた。

おしゃれだった父が大好きだったファッション雑誌「メンズナックル」に掲載されれば認めてもらえるかもしれないと、モデル活動にも力を入れた。

スター性があったのか、単独で同誌の表紙を飾ったのは23歳の時。本気の姿が、両親にも届いた。掲載された雑誌をスクラップして保存してくれているという話を聞いた時、「櫻遊志」として自ら切り開いた道が、間違いではなかったと悟った。

家族の誕生日は必ず集まるというYUSHI一家(本人提供)

家族の誕生日は必ず集まるというYUSHI一家(本人提供)

大みそか、YUSHIは決死の覚悟でその日を迎えた。かつて、ROLANDらとともに“ホスト界の神セブン”の1人として名をはせた33歳。一切の緊張を感じさせない精悍(せいかん)な表情での登場だった。

特攻服を思わせる華々しい白コスチュームを身にまとい、入場の花道から、1歩1歩をかみしめるように、そして楽しそうに、力強く歩を進めた。

だが、待ち受けていたのは別のオーラだった。リングイン直後、視界に入ったのはリアルレジェンド、日本サッカー界の顔ともいえる、キングカズの姿だった。客席に白いハット、白いスーツ。息子の晴れの日を見届けようとするキングは、くしくもYUSHI側のゲスト席に座っていた。

三浦孝太の勝利にガッツポーズして喜ぶカズ

三浦孝太の勝利にガッツポーズして喜ぶカズ

「うわ! カズさんがいる」。突如、押し寄せる緊張感。そしてゴングの音。不安を拭い去るように、開始早々、飛び膝蹴りを仕掛けたが、その膝が届くことはなかった。すぐ三浦の得意なグラウンドの攻防に引きずり込まれ、防戦一方。まさに、手も足もでなかった。

1回終了間際の3分0秒。チョークから何とか抜け出そうとしたころ、渾身(こんしん)のサッカーボールキック、左足が飛んできた。

立ち上がろうにも、足に力が入らない。レフェリーから制止され、TKO負け。キングの遺伝子を受け継ぐ、19歳のデビュー戦白星を最高の形でお膳立てしてしまった。リング中央で「僕のファンになってください!」と叫んだ三浦を、ぼうぜんと見届けることしかできなかった。

YUSHI(奥)に蹴りを見舞う三浦

YUSHI(奥)に蹴りを見舞う三浦

◆大みそか対戦VTR YUSHIが先に仕掛けるも三浦は落ち着いて対応、グラウンドの攻防で優位に立つ。三浦はフロントチョーク、三角絞め、腕ひしぎ十字固めなど、次々と技を披露。YUSHIの体力を削ると1回3分、左足の強烈なサッカーボールキックでフィニッシュ。

◆三浦孝太試合後のコメント「うれしすぎて覚えていない。今まで生きてきて一番うれしい瞬間だった。昨日もぐっすり眠りました。緊張はまったくなかった」

◆YUSHI試合後のコメント「寝技の展開になったらパウンドで倒すつもりが、あんなに寝技がうまいとは。強かった」

対戦前、異色の経歴、急きょ登場した注目の対戦相手に、ネット上では「売名行為」「かませ犬」と、一方的に批判されることもあった。もちろん、そんな声があがるのは承知の上。だからこそ、正々堂々と拳を合わせて、戦う姿勢を示したかった。しかし…。

「何もできませんでした。『うわ、負けてしまった』と思いました。(並行して取り組む)ボディービル界も、ホスト界も、みんなが応援してくれていたので本当に落ち込みました」。本来は2階級近く上の相手だが、体重差を言い訳にするつもりはない。ただ、「かっこいい男」であり続けたいYUSHIに、敗戦は許されなかった。

三浦孝太(右)に敗れたYUSHI(中央)

三浦孝太(右)に敗れたYUSHI(中央)

屈辱の完敗に、絶望の2文字が頭をよぎる。うつむき加減でリングを降りる。ふと、顔を上げると、そこには男が立っていた。カズだった。

「お疲れさま」。国民的スターがハグをする態勢で近寄ってくる。

YUSHI 「俺、血が出ているんで」

戸惑いつつ、声をあげたが、聞こえてきたのは優しいひと言だった。

カズ 「いいんだよ。いいんだよ」

その言葉と同時に、抱きかかえられていた。

試合後、三浦孝太の父、カズ(左)と言葉を交わすYUSHI

試合後、三浦孝太の父、カズ(左)と言葉を交わすYUSHI

一瞬で心をつかまれた。これこそが、真の「かっこいい男」だった。

サッカー少年ではなかった。世代も違う。カズがサッカーをする姿を、1度も見たことがない。

それでも、男として生まれ、男に「かっこいい」と思われるような人物になろうと憧れ、自分磨きに労を惜しまず、生きてきた。

そんなYUSHIにとって、目の前にいるのは、まさに“生ける教材”だった。

これだけでは終わらなかった。後日、知人を介してカズのサイン入りユニホームが届いた。サプライズプレゼントを手に思い知らされたのは、「これが本当のかっこいい男なのか」。

そう、うなるしかなかった。尊敬の念を抱かざるを得なかった。真のスターを目の当たりにし、その直前には、遺伝子を受け継ぐ次男にやられた。それも、気持ちいいくらいに。素直に思えた。「次は必ず勝つ姿を見せなければならない」。悲観は、新たなエネルギーへと変わっていった。

ファンの声にも後押しされた。「誹謗(ひぼう)中傷ばかりかと思っていた」という予想に反して、SNSに届けられるメッセージは、応援する声が大多数だった。

「かっこよかった」「次は頑張れ」-。うれしかった。救われた。「正直、今のままでは、第一線で戦っている人たちに実力が届く自信はないけど…」。いばらの道でも、必ず這い上がると心に決めた。

カズからもらったサイン入りユニフォームを着用するYUSHI(本人提供)

カズからもらったサイン入りユニフォームを着用するYUSHI(本人提供)

あの日から2週間。YUSHIは、三浦が拠点とするBRAVEジムにいた。「対談させてもらえないですか?」と、自ら依頼して生まれた機会。対戦相手が試合中に何を思っていたのか-。あの場面は何を感じていたのか-。試合談議に花が咲いた。

三浦の受け答えからは「スターの素質がある人だな」とあらためて、感じ取った。14歳年下の相手からも、学ぶことは多かった。

「まずは2年間。ちゃんと本気で練習をして、実力をつけて、格闘技でかっこいい姿を見せますよ」。そう言い切ったYUSHIは現在、以前から通っている西新宿のパーソナルジムでMMAの基礎を学んでいる。

今後は、RIZINで活躍するトップファイターの兄弟、朝倉未来と海が拠点とするトライフォース赤坂の練習に参加するなど、出げいこにも精力的に足を運ぶプランがある。

次回の参戦時期は未定だが、既にRIZINからのオファーは届いているという。負けても立ち上がる。「30代の希望になれたらいいなって」。ホワイトニング済みの白い歯を輝かせた。

格闘技で結果を残し、その名を広めた後も、夢がある。いつか俳優として映画に出演することだ。「昔から俳優を目指していたというか、憧れがありました。でも、憧れで終わっていたので、今は本気で目指そうと思っています」。

YUSHIには「1度の人生で、5人分の違う景色を見る」というモットーがある。

何歳になっても夢を持つこと。たとえ、どれだけばかにされたとしても、夢を声にすること。実現のために、本気で努力をすること。忘れなければ、人はいつまでも進化できると信じている。YUSHIは、それを体現する道を歩み始めた。

五味隆典とYUSHI(本人提供)

五味隆典とYUSHI(本人提供)