【第13回】
「お父さんだって…」と白状する勇気
マスターベーション
「マスターベーションを『ひとりエッチ』『セルフプレジャー』『右手の青春』とか明るいイメージで呼んでもいいと思うよ」と笑顔で話すのは「いつからオトナ?こころ&からだ」(集英社)などの著者で日本家族計画協会クリニック(東京・新宿区)所長、産婦人科医の北村邦夫医師だ。
03年に「思春期ホットライン」にかかってきた男子からの電話相談でも、20・1%がマスターべーション、14・7%が射精に関することだ。「マスターベーションすると、背が伸びないとか、頭が悪くなるって本当ですか」「マスターベーションは何回までやっていいのですか」という質問が多い。
北村医師は「昔からマスターべーションには根拠のない迷信があるけど、みんなデタラメだよ。思春期に性欲が高まるのは自然なこと、自分の性欲をうまくコントロールするいい方法だよ」と、マスターベーションは、自分の体や性についてより深く知って自分に心地良さを与える行為であると、繰り返し説明する。
思春期に、急に親子の間に距離ができてしまう理由の1つには性の問題がある。「男子が母親を理想の女性としていた幼児期から、自立した男性になっていく親離れのチャンスです」と北村医師は指摘する。「自分の中に迫りくる性衝動を手放しで歓迎する子はいません。戸惑い、焦り、罪悪感にさいなまれているから口数も減る。マスターベーションの世界はひそやかな場所にあります。この時期、母親は、子どもの部屋のプライバシーを侵害しては絶対にいけません」とアドバイスする。
北村医師は「男の子の子育ては思春期からがお父さんなど年上の男性の出番です」と呼び掛けている。「排せつ欲求が満たされた後に残る罪悪感、罪の意識にさいなまれて落ち込む気持ち、再び襲いくる性欲に負けたときの敗北感、男ならみな経験ありますよね。それを父親はまるでそんなこととは無縁の高潔な人のように振る舞えば、子どもは父親に心を閉ざします」。
「お父さんだって、お前のころには…と白状する勇気を持ってください。マスターベーションの後輩と先輩の仲を確認し、共感し合えれば、雪解けが始まったように父子の関係が改善していくでしょう。息子が性や男女問題で悩んだとき、ぜひ助言者になってください」と父親に熱いエールを送る。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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