スポーツの「インクルーシブ」化が着々と進み始めている。英語の「インクルーシブ」とは、日本語訳すると「全てを含んだ」といった意味で、近年では「インクルーシブ教育」という言葉がよく聞かれる。障害のある子供たち、障害のない子供たちがともに学べる環境を提供する教育システム。そのスポーツバージョンが、「インクルーシブ・スポーツ」だ。

 全ての人々が平等にスポーツのできる環境をつくる-。その活動の一環として、米ロサンゼルスで6日(日本時間7日)から2日間、「JTB車いすテニス グローバルチャレンジ」が開催された。若い世代の積極的な国際交流、障害者スポーツの認知を願い、日本車いすスポーツ協会・代表理事の坂口剛氏(42)が、NPO法人「B-Adaptive Foundation」代表の星野太志氏らとの協力で、約1年前から動き始めたプロジェクト。日本、米国、カナダから選手を招待して国際親善試合を開催した。

 近年は、メジャーリーグや欧州サッカーなど、海外で活躍する日本人選手も多い。そうした中、坂口氏には「障害をもつ選手たちにも同様の機会を与えたい」という思いがあった。今回、日本からは自身の息子でもある坂口竜太郎(14)佐原春香(14)大内山匠(13)川合雄大(13)の4選手が親善試合に参加。同選手たちに対し坂口氏は事前に、保護者同伴なし、携帯電話を持ち込まない、海外の選手と積極的にコミュニケーションをとる、という課題も与えた。理由は「海外で生活して、外国人選手と対戦して、そこで考えて、何かを感じてもらいたい」からだった。

 実際、米国選手との力の差は歴然だったが、坂口竜太郎、川合の両選手は「スコアに応じて、攻めと守りの戦略を変えている」と振り返った。それも、海外の選手と試合をしたからこそ分かったことだ。親善試合の2日前には、メジャーリーガーの岩隈久志投手からサプライズで激励もされた。「自分より強い選手は必ずいる。いろんなものを感じて、そういう選手を目標に頑張って」などと言われたという。4選手の海外遠征での体験は、試合の勝敗以上に価値のあるものになった。

 近年ではテニスの錦織圭、J1東京の久保建英など、トップアスリートが若い年齢から海外に羽ばたく時代になってきている。そうした機会を障害のある選手達にも提供し、「インクルーシブ」な環境をつくることが、車いすテニスグローバルチャレンジの意義でもある。20年には東京五輪パラリンピックも控える。「車いすを使って、子供たちがスポーツができるなら、どんなスポーツでも作りたい」と坂口氏は熱く語る。今回の国際親善試合は、その実現へ向け大きな一歩になった。【斎藤庸裕通信員】