やはり、この男はオリンピック(五輪)には縁がありそうだ。不調が続いていた男子100メートルのケンブリッジ飛鳥(27=ナイキ)が向かい風0・8メートルの条件だった決勝で、10秒22を出して優勝した。4年前のリオデジャネイロ五輪時は前評判を覆し、最終選考会の日本選手権を制覇し、五輪本番では男子400メートルリレー銀メダルにアンカーで貢献。五輪で一気に人生を好転させた男が、東京五輪まで1年となって、復調の兆しを見せた。

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力強さだけではない。ケンブリッジは滑らかに前へ進んだ。2位と0秒25差の圧勝。大会記録で金メダルを手にし、「イメージ通りに走れた。今日は気持ちがいい」と笑った。昨季はサニブラウン、小池が9秒台を出すなど周囲の好記録ラッシュに取り残され、最高は10秒20(追い風0・1メートル)。コロナ禍で調整段階の中、条件を考慮すれば、好結果だった。

周囲のすすめで3月から口元にはヒゲを蓄え、見た目もワイルドに変身したが、取り組みも変えた。冬季からフィギュアスケート高橋大輔の元専属トレーナーである渡部文緒氏の指導を受ける。今まではウエートも重量に満足していた。ただ完全なパワー重視は、知らないうちに体のバランスを崩していた。「片足で椅子に座る、立つとの動作」さえ安定せず、ぐらついた。簡単に思った事も体が対応できない。信じてきた方向性を捨てた。片足スクワットなどのメニューで体の左右差を整え、欠けていた体の連動性を高めた。不調を脱する道筋をつかんだ。

リオ五輪前までは知名度は高くなかった。それが16年の日本選手権Vで100メートル代表を勝ち取り、そして五輪の400メートルリレーではアンカーとして一番“おいしい”場面をさらった。五輪で世界は変わった。昨季は不調で地元五輪の自信は揺らいだが、まさかの事態で立て直す1年をもらえた。「ホッとするまではいかなくとも、猶予ができてよかった」。再び五輪まで上げ潮に乗っていく。【上田悠太】

▼男子100メートル決勝 (1)ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)10秒22(2)草野誓也(アクセル)10秒47(3)竹田一平(スズキ浜松AC)10秒51(4)安田圭吾(大東大)10秒51(5)高山峻野(ゼンリン)10秒55(6)桑田成仁(法大)10秒59(7)三浦励央奈(早大)10秒62(8)瀬尾英明(順大)10秒65