「キング」は「2021」に向かう。オリンピック(五輪)の1年程度の延期が決まり、影響を免れないのはベテラン勢。その中で、最も注目される1人は、体操の個人総合で五輪2連覇中の内村航平(31=リンガーハット)だろう。

両肩の痛みが引かず、昨年は世界選手権代表に落選。4度目の五輪へ、復活を目指して打ち込む最中だった。果たして追い風となるか、向かい風となるか。

そもそも内村は東京五輪を引退の花道と考えていなかった。「ちゃんとできるのはそこで最後かもしれないですが、区切りとは思ってない」と明言していた。通常開催されても、16年12月にプロ転向した時のテーマである普及のため、「一番パワーを持っている」現役であるメリットを生かす。そのために東京後も選手で居続ける使命感があった。その意思は延期の発表を受けても変わらない。

種目も6種目を演技してこそ体操の信条を貫く。19年から慢性化した両肩痛により、いまでも練習は4種目に絞らざるを得ない時もあるのが現状。それでもあくまで個人総合が戦いの場であり、延期でも考えはぶれない。

気掛かりなのはやはり肩の具合になる。期間が延びて治療に専念できる時間が生まれそうだが、本人は「完治することはない」と話す。患部に100本以上の注射を打っても特効薬にはならず、痛みとは付き合い続けなければならない。通常開催までなら我慢できた忍耐も、最長1年伸びるとなれば新たな覚悟が求められる。メリットよりデメリットのほうが増す。

世界から「キング」と称された日本スポーツ界の顔。「いまは元キングですから」とこぼすほどの苦境。延期によって、その過酷さは増す。ただ、辞めるという選択肢は頭にはない。【阿部健吾】