中井亜美と渡辺倫果の心が軽くなった言葉 状況をどう言い換えるか…指導者の声かけ術

フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズは第5戦までを終え、残すは最終第6戦フィンランド大会(21日開幕)のみとなりました。今季は来年2月にミラノ・コルティナ五輪を控える勝負のシーズンとあり、緊迫した大会が続いています。

第3戦スケートカナダから3戦連続で現地取材した記者は、指導者の声かけに着目。どのように選手たちに声をかけるのかは、競技の枠にとどまらず、多くの方が学びになったり、共感できたりする側面があると思います。

今回は他競技にも裾野を広げ、指導者と選手側の言葉を交えながら、「別の視点から物事を捉え直す声かけ」にスポットを当てます。

フィギュア




GPシリーズ第3戦スケートカナダ 女子フリーへ向けた公式練習でピースサインをする中井(撮影・藤塚大輔)

GPシリーズ第3戦スケートカナダ 女子フリーへ向けた公式練習でピースサインをする中井(撮影・藤塚大輔)


中井亜美が中庭コーチからかけられた言葉


「五輪に行くチャンスが1回増えるだけだよ」

中井亜美がその言葉を耳にしたのは、今春のことだった。

声の主はコーチの中庭健介。

シニア1年目の新シーズンに臨むにあたって、そう伝えられたのだという。

「あ、そうだな、そうか、と思って。私はまだ17歳で、これからチャンスもいっぱいあって、シニアに上がったばかりなので」

ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート競技には年齢制限が設けられており、今年7月1日時点で17歳以上の選手に出場資格が付与される。08年4月生まれの中井は条件を満たしており、国内の代表選考をクリアすれば、五輪に出場できる。

7月2日以降に生まれた同学年の選手は出場できないだけに、当初は五輪への思いを強く抱いていた。

そんな時に中庭から伝えられたのが、「五輪に行くチャンスが1回増える」という言葉だった。

視野がぐっと広がるような気がした。


「だから『オリンピック!』というよりも、シニアデビューを楽しもうと思うようになりました」

新たな視座を得たことで、心が軽くなった。

五輪選考に関わるGPシリーズが始まっても、公式練習や試合前は自然と笑うことができた。

そこに結果も伴った。

シリーズ初戦のフランス大会では日本女子3人目の初出場初優勝を達成。自身2戦目のスケートカナダでも3位に入り、シリーズ上位6人によるGPファイナル進出を決めた。

スケートカナダのフリーの演技後には、会場裏でこんな声を響かせていた。

「GPシリーズ2戦、もう終わっちゃった。いや早っ。楽しかったぁ」

ファイナル進出がかかった緊張は大きかっただろうが、それでいて「もう終わっちゃった」と明るく言ってのける姿に、どこか心の余裕のようなものを感じさせた。

GPシリーズ第3戦スケートカナダ 女子フリーで演技を披露する中井(撮影・藤塚大輔)

GPシリーズ第3戦スケートカナダ 女子フリーで演技を披露する中井(撮影・藤塚大輔)

「集中する先を変えてあげる」指導者の思い


視点を指導者側に移す。


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岐阜県不破郡垂井町出身。2022年4月入社。同年夏の高校野球取材では西東京を担当。同年10月からスポーツ部(野球以外の担当)所属。
中学時代は軟式野球部で“ショート”を守ったが、高校では演劇部という異色の経歴。大学時代に結成したカーリングチームでは“セカンド”を務めるも、ドローショットに難がある。