「一匹おおかみになれ」玉鷲が大辻に贈った言葉の真意とは…

玉鷲(40=片男波)がまた1人、若手力士を一人前にしました。

玉鷲の付け人についていた大辻(21=高田川)が幕下優勝を果たし、再十両昇進を決めました。

玉鷲が大辻に贈った言葉は「一匹おおかみになれ」でした。

何を意味していたのでしょうか。

大相撲

玉鷲が贈ったメッセージ

玉鷲が、大辻を付け人として迎え入れたのは2年以上前になる。

玉鷲が所属する片男波部屋は、今も力士数が4人。そのうち関取は玉鷲と玉正鳳の2人。付け人が足りないため、ほかの部屋から借りている。

当時も片男波親方(元関脇玉春日)から、同じ二所ノ関一門の高田川親方(元関脇安芸乃島)に打診があった。「押し相撲を学んでこい」と言われて、大辻が付け人として送り出された。

高田川親方(元関脇安芸乃島、右)から指導を受ける大辻

高田川親方(元関脇安芸乃島、右)から指導を受ける大辻

部屋が異なることもあり、付け人の仕事をこなすのは基本的に本場所中だけ。

関取の化粧まわしや締め込みを締めたり、座布団を運んだり…。取組前には、付け人が胸を出して準備運動を手伝う。荷物持ちも担当する。

幕内力士がいかに土俵に向かっていくのか。緊張感漂う午後4時以降の支度部屋でどう過ごすのか。幕下以下の若い衆にとって、付け人を務めることは別世界を目の当たりにできる貴重な機会でもある。

付け人についた当時、大辻は十代だった。二十歳を前に幕下上位まで番付を上げていた。有望株と言っていい。

ただ、新幕下となってから、今年3月の春場所で新十両に昇進するまで、5年を要した。

協会関係者、幕下以下の力士も参加した大相撲研修会に臨む関取衆の、前列左から若隆景、霧島、琴桜、豊昇龍、大の里、2列目左から伯桜鵬、欧勝馬、宇良、尊富士、玉鷲、3列目左から湘南乃海、佐田の海、隆の勝、獅司、正代、4列目の右は草野(撮影・小沢裕)

協会関係者、幕下以下の力士も参加した大相撲研修会に臨む関取衆の、前列左から若隆景、霧島、琴桜、豊昇龍、大の里、2列目左から伯桜鵬、欧勝馬、宇良、尊富士、玉鷲、3列目左から湘南乃海、佐田の海、隆の勝、獅司、正代、4列目の右は草野(撮影・小沢裕)

玉鷲は何を教え、壁を突破させたのか。

玉鷲は「言葉で教えると忘れる。だから、見せることが大事。子育ても同じ。子供は、お父さんとお母さんを見て育つでしょう。同じことなんです」と言う。さらに「99%は高田川親方、あと1%は自分で学んだ」とも付け加えた。

玉鷲は、大辻をよく見ていた。見抜いていた。

大辻はコミュニケーション能力にすぐれ、兄弟子からかわいがられるタイプ。

玉鷲は、こう説明した。

「(大辻は)人間的に嫌われないタイプ。でも、力士として強くなるには、人に嫌われても強くならないといけないことがある。強くなるとちやほやされて、勘違いしてしまう。そうすると人間は腐る。自分を失っちゃう。会社員でも、社長から声をかけられるとうれしいけど、慣れたらダメでしょう」

前述した通り、玉鷲は言葉で何かを教えたつもりはない。ただ1度だけ、強烈なメッセージを送った。

本文残り74% (2893文字/3886文字)

スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。