障害者手帳を持つ力士、友風の右足首は動かない 右足切断の危機を乗り越えて戦う今
身体障害者手帳を持つ力士がいます。
友風(ともかぜ、30=中村)は、西前頭3枚目だった2019年九州場所で右膝に大けがを負いました。右足切断も危惧された重傷で、土俵復帰まで1年以上かかりました。今も右足首が動かず、右膝から下の感覚がありません。
その状態でどうやって相撲を取っているのでしょうか。不屈の男に聞きました。
大相撲
◆友風想大(ともかぜ・そうだい)本名・南友太。1994年(平成6年)12月2日生まれ、川崎市出身。小学生時代は極真空手やバスケットボールに取り組んだ。ピアノにも熱中し、クラス対抗の合唱コンクールでは伴奏を務め、将来は音楽大学への進学も視野にあった。中学から柔道。相撲の大会にも借り出され、全国中学選手権出場。県立向の岡工業高では、3年時に総体団体8強、個人32強。日体大に進学し、4年時に選抜宇和島大会優勝、全日本選手権16強。日体大OBの嘉風が所属する尾車部屋に入門し、2017年夏場所初土俵。2018年九州場所新十両、2019年春場所新入幕。最高位は西前頭3枚目。三賞は殊勲賞1回。金星2個。得意は突き、押し。185センチ、181キロ。
感覚がない右膝から下
友風は、右足首を動かすことができない。
下肢機能障害5級に認定され、障害者手帳を保持している。
「両足首を動かしてみるので、ちょっと見ててください」
友風はそう言って、イスに座りながら両足の違いを見せてくれた。
左足は足首も足の指の指も動く。同じように動かしているつもりだが、右足は親指がわずかに動くだけ。足首から先はだらりと下を向くだけだった。
「右足の神経が切れていて、腓骨(ひこつ)神経まひなんです。右膝下の感覚がなく、足首が動かない。触られても感覚がないんです」
腓骨神経は本来、右膝あたりから足首を通ってつま先まで伸びている。これが切れているため、足首が動かず、感覚もない。
痛みも感じないため、本場所で打ち付けても、気づいたら腫れていたり、内出血していることがあるという。
触らせてもらうと、少し冷たい。左足に比べると、ほとんど毛がない。
「少し産毛みたいなのが生えてきますけど、ほとんどない。血行が悪いので、めちゃくちゃ冷たいです。だから右足の膝下だけは、ちょっと死んでるみたいな感じです。ふくらはぎの筋肉ももうないですね。ツメが伸びるスピードも(左と)違います」
足首に力が入らないため、膝を上げると、つま先が下がってしまう。このまま歩くと、つま先が引っかかって転倒してしまう。
そのため相撲を取る時は、特性の足袋にインソールと足首を90度に固定する装具を入れて、テーピングで固める。
ケガの影響で、右足は1、2センチ短い。インソールで左右の足の長さを調整しているという。
「装具を着けないと指や足首を捻挫しやすくなるので、雪駄(せった)を履くときやトレーニングをする時も装具を着けます」
右足を前に出す
この状態で、どうやって相撲を取るのか。
「腸腰筋(腰から太ももの付け根に位置する筋肉)を使って、足を根本から動かします。ケガをする前は、右足を後ろに引いて押し相撲をしていました。今は右足を後ろにすると足首がひっくり返っちゃうんで、後ろにできないんですよ。だから左踏み込みですけど、2歩目ですぐ右足を持っていく。工夫しながらって感じです」
先に踏み込む足は、体が覚えている。それは変えないが、2歩目に右を出す。攻めるときも、守るときも、基本的には右が前になる。
大けがを経験しただけに、土俵際は慎重だ。
「やっぱり土俵際で、ちょっとあきらめるのは早いっす。ほかの関取より早いし、ケガする前の友風よりも全然早いです。(土俵の)下に落ちた時に、着地に失敗してケガをしたんで…。着地をうまくしようと思って、もう負ける相撲だったら早めにあきらめて両足で着地し、体重を逃すようにやっています」
勝負師として苦しい判断だが、やむを得ない。それほど、ケガは重い経験でもあった。
人生が変わったあの一番
ケガをするまでは、順調な相撲人生だった。
日本体育大学から、OBの嘉風が所属する尾車部屋に入門。2017年夏場所で初土俵を踏んだ。所要9場所で新十両。所要11場所での新入幕は、琴欧州(のちの琴欧洲)や正代らと並び4位タイのスピード出世(年6場所制以降、付け出し除く)だった。
幕内でも勢いは止まらず、初土俵から13場所連続で勝ち越し。2019年名古屋場所では、横綱鶴竜から金星を挙げた。所要14場所での金星は、小錦と並ぶ史上最速記録だった(当時)。
番付は、西前頭3枚目まで駆け上がった。
ケガを負ったのは、2019年九州場所2日目の琴勇輝戦。
この日を境に、友風の人生は大きく変わった。
押し出され、土俵下に落ちた際に右膝を負傷した。
一瞬の出来事だった。
土俵を割った友風は、土俵下に視線を向けた。向正面の控えの行司と審判の間に右足から落ちた。
友風は動けなくなり、場内が静まりかえった。呼び出しが駆け寄ってくるが、動けない。約2分後、若者頭たちの手を借りて車いすに乗り込んで、西の花道を下がっていった。
友風は、この取組の映像を今も見返したことがない。見る気も起きないという。
「1回も見たことはないですよ。トラウマみたいになっているんで。落ちた時に、異常な音が(膝から)しました。ガコガコガコって。音がすごかったんですよ」
落ちた瞬間のことは、忘れない。
「めちゃくちゃはっきり覚えていますよ。スーツで白い帽子をかぶった高齢の男性が座っていたんです。その人がパッと目に入って、よけなきゃと思った瞬間でした。体をよけようと思って、ひねったんですよね。足が変な方向に曲がっていました。左足に何かがついているなと思って見たら、自分の右足の裏が左足についていたんです。これはやばいなと思って…。その段階ですでに右足の感覚はありませんでした」
右膝が脱臼していた。
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1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。
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