【一周忌】北の富士さんの義理と人情 博多で生まれたその後の物語
北の富士さんが亡くなってから、11月12日で1年になります。亡くなった日も、九州場所中でした。
一周忌にあたり、北の富士さんが愛した福岡・中洲周辺の飲食店の皆さんに話を聞きました。
人気横綱だった元親方が残した義理と人情に出会いました。
大相撲
★北の富士さんを語る
- 天ぷら岩永 岩永佳也さんに贈られた形見
- 紀文 天本正中さんが教えられた義理
- スナック田じま 田島恵美子さんが残しているボトル
九州場所は、日を追うごとに冬の気配が色濃くなっていく。番付発表のころは、晩秋。千秋楽を終えると、冬を感じる。
この時期は、鍋がうまい。相撲部屋に、高級魚の「アラ」がどれだけ差し入れられたか―。盛り上がりがちな、話題の1つだ。
九州場所を楽しみにしている力士、関係者は多い。本場所が行われる福岡国際センターと、九州一の歓楽街・中洲は、物理的に近い。博多ラーメン、明太子、水炊き、もつ鍋、ごぼう天うどん、ゴマサバ、博多天ぷら…。うまいものが尽きない。
北の富士さんも、九州場所を楽しみにしていた1人だった。
1957年(昭和32年)に入門してから、力士として、親方として、解説者として、半世紀以上も11月は福岡で過ごしてきた。行きつけも多かった。
4月に送られてきた突然の形見分け
天ぷら 岩永 岩永佳也さん
天神から日赤通りを南にいくと、4代続く老舗の天ぷら屋がある。
北の富士さんが入門した年に前身の「料亭 岩永」が創業し、今は「天ぷら 岩永」となった。
4代目の店主・岩永佳也さん(53)は、家族ぐるみで北の富士さんと付き合いがあった。
「この店が『料亭 岩永』だったころ、初代おかみのひいばあさんが一番かわいがっていたお相撲さんが、北の富士親方でした。亡くなった私の父と年が同じということもあって、ひいばあさんが目をかけていました。父の代に代わっても、ずっと店をかわいがってくれました。父の毅三郎(きさぶろう)は、九州場所になると(午後)8時には、店を出て行って、呼ばれてもいないのに北の富士親方のところに行ってました。
親父が死んだ時も、東京から真っ先に来てくれて、通夜も葬式も出てくれました。親方の口癖は『お前のひいばあちゃんと、じいちゃんばあちゃんにかわいがられて、毅三郎には迷惑をかけられたが、お前にはちゃんと、受けた恩を返すからな』でした。
九州場所中は4回も5回も店に来てくれました。弁当を作って、ホテルに持ってきてくれということもありました。ずいぶん、かわいがられました」
北の富士さんは、店に入ると、カウンターの一番奥に座った。
すると、メニューにはない馬刺しを注文する。
岩永さんは、うれしそうに回想する。
「馬刺しは親方の好物なんです。ウチのゴマサバも好きでした。漬け込んであるのが好きでした。天ぷらは、キスとハゼが好き。何枚も召し上がります。日本酒や焼酎を飲まれることが多いのですが、季節柄、ボジョレーヌーボーを入れておかないといけないんですよ」
北の富士さんが座っていた席に、今は八角親方(元横綱北勝海)が座る。君ケ濱親方(元関脇隠岐の海)も来店する。馬刺しを注文するのも、北の富士さん譲りだという。
「僕が生まれた時は、現役の横綱でした。料亭の時の座敷で、僕を持ち上げてくれた。ウチの子が生まれた時は、福岡まで来てくれました。ウチの親父は孫を抱けなかったけど、北の富士親方が抱っこしてくれたんです。北の富士親方がいたから、八角親方が大事にしてくれる。思い出がいっぱいありすぎて…。ウチの家族はみんな親方が大好きです」
北の富士さんが亡くなってから約5カ月後の今年4月。東京から大きな段ボールが送られてきた。
「これは何だろうと思って開けたら、形見分けでした。多当紙に『佳也』と書いてありました。着物、スーツ、コートを大量にいただきました。号泣しました」
着物やスーツは仕立て直して、大事な時に着ている。
「料理屋の会合で出かけることがあります。これを着ていくと、『あれ? 岩永って、こんなにおしゃれだった?』と言われます。北の富士親方のおさがりだと話すと、みんなびっくりします」
お前にはちゃんと、受けた恩を返すからな―。返すにもほどがある。北の富士さんは若いころ、店でどれだけの恩を受けたのだろうと思いをはせる。
岩永さんは店が定休日となる日曜日に、本場所に行く。初日、中日、千秋楽の3回。
初日、北の富士さんの形見となった着物を見せてくれた。
裏地には、春画が描かれていた。
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1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。
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