草野が義ノ富士になるまで 入門を発表する日に部屋が消滅…今だから明かせる苦悩

まだ大銀杏が結えない義ノ富士(24=伊勢ケ濱)の勢いが止まりません。

初土俵から10場所連続で勝ち越し、2026年初場所は西前頭筆頭となりました。

しかし、入門するはずだった宮城野部屋の閉鎖や、宮城野親方(元横綱白鵬)の退職など、目の前で想像していなかったことがこれまでは次々に起きました。

どんな日々だったのでしょうか。実情を明かしてくれました。

※しこ名、親方名などは、当時の表記にしています。

大相撲

義ノ富士(右)は安青錦を突き出しで破る(2025年11月19日撮影)

義ノ富士(右)は安青錦を突き出しで破る(2025年11月19日撮影)

番付だけを見れば、順調すぎる力士人生だ。

草野は日大時代、学生横綱に輝くなど9冠。幕下60枚目格付け出しデビューから、10場所連続で勝ち越し。すでに三賞3回、金星1個を獲得し、三役目前となった。

だが、土俵外は思わぬ出来事の連続だった。

今だから明かせる知られざる日々を今、振り返る。

◆義ノ富士直哉(よしのふじ・なおや)2001年(平成13年)6月25日生まれ、熊本県宇土市出身。小1から宇土少年相撲クラブで始めた。宇土市立鶴城中3年時に中学横綱。文徳高では、3年時に総体団体優勝、個人2位。日大では、全国学生体重別大会で無差別級2連覇。全国学生選手権個人優勝など9冠。幕下最下位格付け出しで2024年夏場所初土俵。25年春場所新十両、同年名古屋場所新入幕。最高位は西前頭筆頭。三賞は敢闘賞1回、技能賞2回。金星1個(大の里)。父の草野信一さんは元競輪選手。183センチ、159キロ。

祝賀会の日にまさかの発表

日大で主将を務め、実績も十分。多くの相撲部屋から誘われた。

学生横綱のタイトルを手にした日大の草野(2023年11月4日撮影)

学生横綱のタイトルを手にした日大の草野(2023年11月4日撮影)

その中から、元横綱白鵬の宮城野部屋に決めた。

「学生の時から、川副さんだけなく、炎鵬関、間垣親方(元幕内石浦)、あと大谷先輩。自分が大会で優勝した時に祝ってくれたり、みなさんにお世話になりました」

4人とも宮城野部屋に所属していた(大谷は2025年5月に引退)。特に決め手となったのは、2学年上の川副の存在だ。

学生横綱となった日大川副(右)は3位の後輩、草野と健闘をたたえあう(2021年11月6日撮影)

学生横綱となった日大川副(右)は3位の後輩、草野と健闘をたたえあう(2021年11月6日撮影)

保育園のころからの幼なじみで、家族ぐるみの付き合いが続いていた。小学校、中学校、熊本・文徳高、日大と、進路はすべて同じ。気心は知れており、川副は「輝鵬」のしこ名で十両を経験するなど、プロでも実績を残していた。宮城野部屋に入ることは、自然な決断だった。川副の親も喜んでくれた。「選んでよかったな」と実感していた。

2024年2月23日、KKRホテル熊本で「全国学生相撲選手権大会 第101代学生横綱 優勝祝賀会」を開催する運びとなった。ここで、宮城野部屋への入門を発表することになっていた。

宮城野部屋のおかみさんや川副も熊本入りし、準備が整った時のことだった。

報道陣の前で謝罪する宮城野親方(左)と北青鵬(2024年2月23日撮影)

報道陣の前で謝罪する宮城野親方(左)と北青鵬(2024年2月23日撮影)

2月23日午前10時半すぎ。日本相撲協会から、まさかの発表があった。

前日までに、幕内北青鵬の暴力問題が表面化していた。これを受けて臨時理事会が開かれ、宮城野親方が監督責任を果たせなかったとして厳罰を科された。降格や報酬減額のほか、3月の春場所は別の親方が師匠代行を務め、4月以降は伊勢ケ濱一門が宮城野部屋を預かることになった。つまり、一時的かもしれないが宮城野部屋がなくなることを意味していた。

発表当日になって、宮城野部屋のおかみさんから、入門発表を控えるように伝えられた。突然のことだった。

草野は、あの日のことを忘れない。「ええーって思いました。部屋がなくなるって聞きました。1回、考え直してもいいって言われたんですけど、他の部屋には断りを入れていたので…。今から考え直すと言われてもな…、と」。

祝賀会でのサプライズ発表は取りやめとなり、学生横綱を祝う会としてのみ開催した。主役の草野は、ネイビーのスリーピーススーツに身を包み、動揺することなく挨拶した。

「パーティーが終わってから現実を見ましたね」

もともと、日大関係者の中には、宮城野部屋入門に難色を示す人もいた。この事態になり、「だから言ったじゃないか」と言う人もいた。

宮城野部屋は、どの部屋への預かりとなるのか―。気をもむ日々が続いた。約1カ月後の3月28日、宮城野部屋は無期限閉鎖となり、伊勢ケ濱部屋に転籍することが決まった。

幕下付け出しデビューの草野(2024年5月13日撮影)

幕下付け出しデビューの草野(2024年5月13日撮影)

宮城野部屋最後の夜

草野はもともと伊勢ケ濱部屋からも、誘われていた。横綱照ノ富士から、日大の先輩の尊富士を通じて声をかけられていた。2学年上の尊富士は「弥輝也さん」と呼んで慕う関係でもあった。

1度は断った部屋に入る―。草野は心に引っかかりを覚えていた。

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。