ふと試合を見ているとベンチやスタンドに観客がいないその姿にはすっかり見慣れてしまっています。目を凝らして見ると、マスクをしていない監督や関係者の姿がちらほら。筆者がスペインに住んでいる時、花粉症対策でマスクをしたまま市内のレストランやカフェに行った時に入り口で「結核か?」と聞かれ、すんなり入れてもらえなかった記憶が度々蘇ります。

さて、スポーツ界で無観客というのは経済的に、とくにチケット収入という部分で大きな影響があり、更にはユニフォームを中心としたマーチャンダイジングの売上にもそれは大きく響いています。チームによってはコロナ前と比べて50%近くの売上が減少していると耳にすることも。フットボール業界においては3大収入と言われている(チケット興行収入、マーチャンダイジング収入、放映権収入)が、その2本の柱に大きく亀裂が入ってしまった形です。まるで世界戦争でも起きたような状態からの脱却は、観客が戻れば解消されるという安易なものではないと感じ、このマイナス分を取り戻すには相当な時間がかかるのではないかと予測しています。そのような中、契約更改が目の前に迫ってきている選手が多くおり、レアル・マドリードの第1キャプテンを務めるセルヒオ・ラモスもその1人です。

セルヒオ・ラモスは1986年のセビージャ生まれでセビージャの下部組織からトップチームまで上り詰めてレアル・マドリードに当時のスペインの10代選手としては最高記録となる金額でレアル・マドリードに移籍。そこからの活躍はご存知の通りですが、ユースチーム時代にはFWを務めていたとも耳にします。あの得点感覚はそこから来るのかと思いますが、そんな選手が長く苦楽を共にしたチームを簡単に去ることはちょっと考えにくいです。現地の報道を日々読み込んでいると、新たに提示された給与を中心に条件そのものに納得がいっていないのか、交渉が詰まっているような報道ばかりであることが目につきます。代理人は実兄となっており、兄弟であることがまた一つ鍵となります。やはり交渉の金額=家族の収入となってしまうところに落とし穴があり、どうも落とし所をつけずに一方的な訴えが多かったりすることはよく聞きます。C・ロナウドの時も同じような話はありましたが、どうしても選手サイドは複数年契約を求めます。特に高齢になればその傾向は強くなりますが、30歳を過ぎた選手に対する怪我のリスクも考慮せねばならず、パフォーマンスの低下・回復遅延といったところはどうしても避けられないテーマにはなります。大体の移籍ニュースは翌日に「本人否定」などというケースが多く、今回もそうなるのかなと感じていたりします。しかしチームからしてみれば選手がそのチームで引退することは(獲得移籍金が多額のため)大きなマイナス面が伴っていることを考えると、契約更新したとしてもどこかのタイミングで移籍することで、なんとか回収するというチームの目論見は避けて通れないものでもあります。ただ、セルヒオ・ラモスの場合に限っては、もう十分に獲得移籍金以上のものをチームにもたらしてくれたということは、これまでの実績が証明しています。今後の推移に注目したいと思います。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)