無敵艦隊、恐れるに足らず-。ドイツに勝ち、コスタリカに敗れた日本は1次リーグ最終戦でスペインと対戦する。決勝トーナメント進出には勝利が必要。勝った方が突破のスペインとのガチンコ勝負(引き分けならスペインが突破)になる。連敗なら敗退が決まっていたのだから、最終戦に自力突破の可能性を残しているだけでも喜ばしい。

世間ではスペイン代表のことを「無敵艦隊」と呼んでいるが、実はその愛称を使うのは日本ぐらい。スペイン国内ではチームカラーから「ラ・ロハ(赤)」。フランス代表が「レ・ブルー(青)」、イタリア代表が「アズーリ(青)」などと呼ばれるのと同じだ。

スペインの通信員は「無敵艦隊なんて言ったら、スペイン人は怒りますよ」と教えてくれた。もともとは16世紀にスペイン国王フェリペ2世がイングランド攻撃のために編成した大艦隊のこと。当時としては最大級の陣容を誇ったが、英国海軍に惨敗。「外見だけは立派だが、戦うと弱い」ことを英国人が皮肉り「無敵艦隊」と呼んだのだ。

日本で使われ出したのは98年フランス大会からだという。確かに、当時のスペイン代表は「無敵艦隊」だった。Rマドリードやバルセロナなど国内に屈指のクラブを抱え、スター選手をそろえながらも代表は勝てない。82年の地元開催W杯も2次リーグ最下位で敗退。まさに「見かけ倒し」だった。

もともとバルセロナのカタルーニャ地方とマドリードの中央政府の仲が悪く、国が一つになる土壌がなかった。バルセロナのサポーターはスペイン代表でもRマドリードの選手は応援しない。負けろとさえ願う。逆もある。歴史的な背景からも代表チームが強くなることはなかったのだ。

W杯は2010年に初優勝したが、それ以外は1950年の4位が最高。決勝進出は優勝した時の1回だけで、4位1回以外は8強止まり。1次リーグ敗退が5回もある。ブラジルが7回(優勝5回)、ドイツが8回(同4回)決勝に進んでいるのと比べれば「無敵艦隊」ぶりがよく分かる。

ここ20年ほどはショートパスを主体としたバルセロナ流の「ティキタカ」で好成績を残しているが、ドイツを圧倒しながら終了間際に同点ゴールを許すなど、勝負弱いDNAは完全に消えていないように思える。

試合開始から主導権を握られて攻め込まれても、粘り強い守備で失点を抑えれば必ずチャンスは訪れる。勝ち点1で十分なスペインが引き分けを意識して足が止まった時、日本の誇るスピードスターがコスタリカにやられたようにカウンター一発で仕留める。

世界屈指の大型船で編成した「無敵艦隊」を破ったのは、イングランドの小型船の機動力とスピード。そして、ドレーク提督の緻密で大胆な戦略だった。無敵艦隊、恐れるに足らず-。ドイツに続いてスペインを撃破する日本代表の姿が、はっきりと見えてきた。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)

後半、ドイツ・フュルクルク(下)に同点ゴールを許すスペインGKシモン(ロイター)
後半、ドイツ・フュルクルク(下)に同点ゴールを許すスペインGKシモン(ロイター)