「目は口ほどにものを言う」とは、よく言ったものだ。

 4月から12年ぶりにサッカー担当に戻って、何よりも気になっているのがベテラン選手の眼力の強さだ。担当チームでは横浜F・マリノスDF中沢佑二(39)や柏レイソルMF大谷秀和(32)、ジェフユナイテッド千葉DF近藤直也(33)…。彼らに取材すると、時には遠くを見つめながらも、顔を正対させながら大部分の時間、こちらの目を見ながら話してくるという共通点がある。しかも目が合うと、こちらも簡単にそらしてはいけないような、迫るものと、同時に引き込まれるようなものがある。12年前には、まったく気付かなかった。

 前述の3人は確かに、体を張ったプレースタイル同様、ギラギラした印象が一般的にもあるかもしれない。だが、普段は柔和な表情を見せる横浜DF栗原勇蔵(33)や柏MF細貝萌(30)らからも、同じような印象を受ける。「なぜだろう?」と漠然と疑問を抱いていた時だった。たまたま録画していたテレビのドキュメント番組で、日本で唯一のハサミ職人がインタビューに答える姿を見て「これだ!」と気付いた。彼らは“職人”なのだ。

 職人だから、たどり着いた自分の考えや哲学を持っている。また、それを堂々と胸を張り、相手の目を見て話すことができる。「これで飯を食ってきた」という、仕事への揺るぎない自信も持っている。

 もしもテレビで見た頑固オヤジのようなタイプのハサミ職人が、部外者に仕事でケチをつけられたらどうなるか? 一触即発となることは容易に想像できる。だが、それを仕事としてやるのが我々の職業だ。時には敗因となったプレーを指摘し“職人”の仕事ぶりにダメ出しをしなければならない。一方の“職人”としては、生半可な気持ちで仕事ぶりにケチをつけられたくないはず。しっかりと目を見て話すのは、取材対応も含めて真剣勝負と、無意識にとらえていることの表れなのかもしれない。

 担当になって初めて、横浜の中沢にあいさつした時のやりとりは鮮明に覚えている。「以前は何の担当を?」とたずねられたので、相撲などを挙げると中沢は「お相撲さんは無口なイメージがありますけど、どうなんですか?」と聞かれた。「人それぞれですね」。そう答えると「サッカーも同じですよ。よく話す人もいれば、そうでない人もいる。人それぞれです」と返ってきた。口べたな人もいるが、不器用なだけで、サッカーに対する熱い思いは変わらない。それをさりげなく諭してくれたと思う。

 もちろん10代や20代の選手にも、しっかりとこちらの目を見ながら話す選手も多い。ただ先日、担当不在で代わりに行ったFC東京の試合でGK林彰洋(30)が言っていた言葉も象徴的だった。「30代というと、昔は引退が近づいている年齢というイメージでしたが、今が1番楽しいし、今が一番上達している気がする」。12年前に20代だった私は、30代の選手は目上の人だからしっかりとしていると漠然と思っていた。だが、今はむしろ同年代や年下になって、彼らの目の奥にある言葉にならない思いを、少しだけ感じ取ることができるようになったのかもしれない。【高田文太】


 ◆高田文太(たかだ・ぶんた)1975年(昭50)10月22日、東京都生まれ。99年入社。写真部、東北総局、スポーツ部、広告事業部を経て、今年4月から12年ぶりにサッカーを担当。J1横浜、柏、J2湘南、千葉などを担当。社内では1、2を争う大食いと自負している。