中山の代役は任せろ-。ワールドカップ(W杯)カタール大会日本代表DF伊藤洋輝(23=シュツットガルト)が、日刊スポーツなどの取材に応じ、W杯への思いを語った。左サイドバック、センターバックをこなすユーティリティー性が武器で、欠場の決まったDF中山雄太の代役も十分にこなせる。今年6月に日本代表初招集。わずか5カ月で夢舞台の切符をつかんだ。来季、史上初めてJ1クラブが姿を消す静岡出身者で唯一の選出。サッカー王国のプライドも背負い、カタールでシンデレラストーリーを実現させる。【取材・岩田千代巳】

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-W杯メンバー発表はどんな状況で知ったか。メンバー入りしての気持ちは

伊藤「(ドイツの)朝6時で起きていなかった。奥さんが“おめでとう”と言ってくれて、みんなからの連絡で知りました。現実、4年前、(サポートメンバーとして)ロシアへ行ったとき、自分が4年後にこの立場になるイメージはできていなかった。W杯出場できるのはうれしい。結果を残すことも意識してやりたい」

-W杯が夢から現実になってきたのはいつか

伊藤「昨年夏、ドイツ(ブンデスリーガ1部シュツットガルト)に来て、試合に出始めたころから。6月に日本代表に呼ばれて出場機会をもらって。自分が食い込むチャンスがあるとあらためて確認できた。ドイツに来てから、90分のプレーの強度は、周りが高い中でやってきたので確実に上がっている。最初は言語もわからない中で飛び込んで、苦しい思いもした。でも、厳しい環境に飛び込んでやっていくべきだとあらためて思った」

-6月の代表活動を通して感じたことは

伊藤「6月は背負うものが他の人よりも少なかったこともある。自分がどう、パフォーマンスをしてチームにいい影響を与えられるか。それが認められたからこそのメンバー入りだと思う。ドイツでやっている自分のやれるパフォーマンスをW杯でもチームのためにやれれば」

-ここまで成長できた要因は

伊藤「(シュツットガルトで)セカンドチームの予定が、トップチームに残してくれたこと。レベルの高い環境に身を置けたことが大きかった。去年の(8月20日の)ライプチヒ戦は0-4で負けましたが、僕はベンチで“これがブンデスのトップレベルか”と感じた。そこのレベルに追いつこうとしていた自分があったからこその成長だと思う。ドルトムント、バイエルンとマッチアップしながら成長した部分はありますが、厳しい所に身を置いて悔しい思いをしたからこその成長だと思う。これからも、カタールでどんな思いをするか分からないが、サッカー人生は長い。いろんな悔しい思いをしながら成長していければ」

-左サイドバックの中山雄太選手が負傷で欠場。左サイドバックとしての期待もかかる

伊藤「(中山)雄太君が一番ショックだと思う。ただ、雄太君が予選でチームの一員として戦ってくれたからこそ、僕たちがW杯に出られる。雄太君に限らず、予選を勝ち抜いてくれた人たちに感謝とリスペクトを持ちながらプレーしないといけない。サイドバックは、だれと組むかでプレー内容は変わってくる。周りの選手に合わせながら、自分が気を使ってプレーできれば。ドイツもコスタリカもスペインも、まずは個のところ、1対1で負けないように。それは日々、ブンデスリーガで意識していたので最低限、やっていきたい」

-静岡は来季、史上初めてJ1チームがなくなる。静岡からW杯日本代表に入ってバトンはつないだ。

伊藤「2チームが降格して残念な気持ちがある。静岡県を勇気づけられる存在になれればいいかなと思います。僕もJ2を経験したけど難しい。山田君(磐田MF山田大記)も言ってましたが、ダメだったときに基礎を見つめ直すことは大事。そこは、僕も含めてやっていけたら」

-所属のシュツットガルトでは監督が交代した。チームも4バックと戦術も変化している。

伊藤「ポジション争いもあらためて感じている。(10月22日の)ドルトムント戦で(先発から)外れて、そこに対して悔しい気持ちもある。敗戦後、監督が“必要だ”と伝えてくれた。アウクスブルク戦で勝利できたことは、チームとしても個人としても1つ大きな収穫だった。監督は元コーチで、選手の能力は把握していると思う。チームは苦しい状況。勝ち点を取るために、いいパフォーマンスを発揮できれば」

-4年前のロシア大会でサポートメンバー同行し、大会も観戦した。印象に残ったことは

伊藤「日本のコロンビア戦とセネガル戦、スペイン対イランを見ました。大会の大きさは現地で身に染みて感じた。A代表の選手たちとチャーターに乗せてもらって“これがA代表か”と、あこがれの心が出てきた。目標としてはいたけど現実のイメージはできていなかった」

-ロシアで3試合見て感じたことは

伊藤「スタジアムの雰囲気は、感じましたね。ピッチに立ってどう感じるかはイメージできていないけど逆に楽しみです」

-ロシア以前の大会で覚えている選手、試合はありますか

伊藤「僕は99年生まれで02年(日韓大会)の大会は覚えていません。06年(ドイツ大会)の中村俊輔選手のゴールは鮮明に覚えていて、川口能活さんがクロアチア戦で止めたPKも覚えている。ブラジルの強さも覚えていて、W杯に出たら本領を発揮してくる。ピッチに立ってより感じるものだと思う。相手が自分たちが嫌がるような勢いを出せれば勝利につながると思う。自信を持っていきたい」

-森保監督は若手の野心に期待したいと言っていた。初のW杯でどんな野心を出していきたいか

伊藤「みんな結果を残したいとカタールに来る。その思いはみんな一緒。チームも1つになる。初戦のドイツが一番大事。そこに向けて、チームとしても個人としてもいいコンディションを持っていけるようにしたい。自分も所属クラブであと2試合ある。まずはチームでしっかり結果を残してW杯へ行きたい」

◆伊藤洋輝(いとう・ひろき)1995年(平7)5月12日、静岡県浜松市生まれ。フットサルを経て、小学5年でサッカーを始める。中学時代から磐田の下部組織でプレー。高校3年の17年5月、トップに昇格し2種登録。18年、磐田入りし、東京五輪を目指すU-21日本代表に選出され、同年3月、ルヴァン杯・清水戦でデビュー。19年、名古屋へ期限付き移籍。20年にJ2の磐田に復帰。21年6月、一般女性との結婚とシュツットガルト移籍を発表。186センチ、78キロ。利き足は左。