サッカーの南米選手権(コパ・アメリカ)がブラジルで始まりました。日本は招待国として東京オリンピック世代を中心としたチームで参加し、いよいよ17日(日本時間18日)に初戦のチリ戦を迎えます。今回の「ニッカンジュニア」ではサッカー評論家のセルジオ越後氏(73)が、ブラジルで使われるサッカーにまつわる慣用句(ポルトガル語)をいくつか紹介します。親子や家族で試合を楽しむとともに、クイズ感覚で「答え」を考えてみてはいかがでしょうか。(解釈は諸説あります)

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南米では主にスペイン語が使われますが、ブラジルはポルトガル語です。日本でも「ボランチ」や「マリーシア」という言葉はすっかり浸透しましたね。前者はポルトガル語で「車のハンドル」のことで、試合のかじ取りで重要な「守備的MF」を表すようになりました。後者の直訳は「ずる賢さ」で、試合での「駆け引き」などを示します。元ブラジル代表ドゥンガが日本選手に対して「マリーシアが足りない」と発言し、話題になりました。

それでは、ブラジルで以下のような意味の言葉で表されるサッカー選手とは、どんな選手のことでしょうか? ちょっと想像してみてください。

<1>ピアノを担ぐ人

<2>焼きイモ

<3>せっけんがついている

<4>若鶏店

<5>ポップコーン

<6>草を食べなくてはいけない

<1>ピアノを担ぐ人=carregador de piano(カヘガドール・デ・ピアノ)華やかではないけど、守備で頑張る選手などに使います。ヒーローであるFWがピアニストで、それに対して「裏方」の意味。ピアニストは1人だけでいいが、1人ではピアノは担げないから、チームでピアニストを支えてこそ美しい演奏ができる、という発想です。日本語の「縁の下の力持ち」といったところでしょう。献身的に走り回って、相手の攻撃の芽をつむ守備的MFなどに使ったりします。

サッカーだけでなく他の組織でも使い、企業なら花形営業マンが、野球なら投手がピアニストで、それを支える人たちが「ピアノを担ぐ人」となります。

<2>焼きイモ=batata quente(バタータ・ケンチ) 相手が激しく来るとあわててボールを離して、人に渡してしまったりする選手、転じて「すぐ逃げる選手」ともなります。焼きイモが熱くて、すぐに手を離してしまう様子からの表現です。

<3>せっけんがついている=ensaboado(エンサボアード) 捕まえきれない選手、つまりボールキープやドリブルがうまかったり、速い選手を意味します。体にせっけんがついていると、つるつる滑るので「捕まえづらい」となります。南米選手権でも期待の久保建英らが、相手の間をスルスルと抜けて、こんな表現で称賛されるといいですね。

<4>若鶏店=frangueiro(フランゲイロ) ミスの多いGKのことです。諸説ありますが、ニワトリを捕まえようともたついてしまう様子と、ボールを捕まえきれない(失点する)イメージを重ねたものともいわれます。向かってくるニワトリ(ボール)に対して、姿勢を低くして捕まえようとしても、股間を通り抜けられてしまう感じです。日本では「ザル(GK)」という言葉もありますね。

<5>ポップコーン=pipocar(ピポカール) 「弱虫」「激しさから逃げる選手」という皮肉で使われます。熱せられてポップコーンがはじける様子から「熱いところに足を着けられない」=弱虫というわけです。ポップコーンのように跳んで、相手から逃げる選手ですね。<2>と同じように「熱い」は激しいプレーを意味します。

<6>草を食べなくてはいけない=tem que comer grama(テン・キ・コメー・グラーマ) 激しいタックル、悪質タックル。体を投げ出し、顔までピッチにこすりつけて、芝が口に入るほど激しいイメージ。同時に相手を蹴ったり、汚いプレーをする選手を「馬」と呼びます。悪質なファウルを受けたとき、芝をちぎって投げつけて「(馬は)草でも食べてろ!」などと、言い返す場面もあります。

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いかがでしたか? 日本にもいろんな慣用句があるように、それぞれの国にユニークな例えや表現がたくさんあります。

◆セルジオ越後 ブラジル・サンパウロ生まれの日系2世で、18歳でブラジルの名門コリンチャンスとプロ契約。同国代表候補にもなった。72年に来日、藤和不動産サッカー部(現湘南)でプレー。78年から「さわやかサッカー教室」で全国を回り、開催1000回以上、延べ60万人以上を指導。その経験から「セルジオ越後の子育つ論」など子育て本も出版。93年4月から日刊スポーツ評論家。06年文部科学省生涯スポーツ功労者表彰受賞、13年外務大臣表彰受賞。17年旭日双光章を受章。H.C.栃木日光アイスバックスのシニア・ディレクター、日本アンプティサッカー協会最高顧問。