プロサッカー選手としての現役時代と現在のユーチューバーの立場で、共通して重要なものの1つにコミュニケーションがあります。YouTubeチャンネルに出演してくださる方々とは、知名度や年齢に関係なく尊敬の念をもって接するのが大前提。その中で、人それぞれにさまざまな距離感があります。

例えば、年下の現役選手のゲストに対しては、いかに気を使わないような空気感を作るか。言葉遣いが丁寧すぎても、雰囲気が硬くなる。より質の高いものを作るためには、そういった微妙なさじ加減が重要になります。相手のキャラクターを短時間でいかに感じ取り、気持ちよく話してもらう。つまり相手の心をつかむ。これは現役時代もよくやっていたことです。

浦和時代、DF槙野智章選手を個別で呼んで話したことがあります。当時、実力を発揮できない時期が続いていた。その時、否定的なことを言う前に、まずDFとしての資質は日本でトップレベルだと思うと話しました。その上で、DF松田直樹さんやDF中沢佑二さんらトップ選手との差、どこが違うのか感じたことを伝える。槙野選手には後で感謝の言葉をもらいました。最も大事なのは認める部分をまず伝えること。その上で意見することです。

現役時代は年齢が10歳以上も年下の後輩もいました。昔は自分の主観で強く言って成り立った時代もあったかもしれませんが、今は通用しません。考え方も、生活環境も、教育方針も、時代とともに変わります。現代は各自の感受性を見極め、言葉や手法を変えることが大切なのではないでしょうか。

現在は出演者だけでなく、クリエーターや編集者とのやりとりも多いです。勝利を目指すサッカーのように、目的が1つじゃない。相手のためと思っても、それが相手のためにならなかったこともあり、そこに難しさもあります。ただ、良いものを作るという最終目的から逆算して、なにをどう伝えるか。そこは勝利から逆算するサッカーと考え方は同じです。現役時代に学ばせてもらった人との接し方が、ステージが変わった今も生きていますし、大事にしたいです。(アテネ・オリンピック日本代表主将)