熊本県八代市の私立秀岳館高は5日、サッカー部の30代男性コーチが3年生部員に暴行して書類送検された問題で、記者会見を開いた。本件以外にも複数の生徒、複数の事案で暴力行為があったことも明るみに出た。

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暴力、いじめ、パワハラ…。日本だけでなく世界スタンダードで断じて許されない昨今、秀岳館の問題は、サッカー界や教育現場の品格をおとしめた卑劣な行為だ。記者歴30年近くで初めて見た、驚愕(きょうがく)の暴力動画や段原監督の耳を疑う暴言に背筋が凍った。

最近では、担当するJ1鳥栖の金明輝前監督が、Jリーグの「パワハラ認定」を受け、世間を揺るがしたばかり。それでも、後を絶たない暴力騒動に「またか」と、あきれるしかない。

鳥栖問題で、当時の村井チェアマンは「動機のいかんによらず、理由のいかんによらず、ハラスメント、暴言や暴力はいっさい許されないということをJリーグとしては確認したい」と話した。指導者は、もっと「暴力」「体罰」=「犯罪」の危機感を持つべきだ。

告発に端を発した鳥栖の暴力騒動では、監督自らの捜査妨害や、GMが暴力の事実を隠蔽(いんぺい)して上層部に報告しないなど、クラブの自浄作用が機能していなかったことも問題視された。

秀岳館においても、部員による暴力動画拡散が事の発端。自浄作用不全だった。事なかれ主義、見て見ぬふりの学校体質も、過剰な暴力を助長した可能性は否めない。

暴力やいじめを受けても直に相談すべき環境がなく、告発でしか窮状を訴えるすべがなかったのではないか。監督の暴言投稿もSOSの声に他ならない。5日の記者会見でも「最初にあげた動画はSOSともとれるのでは」との問いに、段原監督は「おっしゃるとおり。SOSとして捉えている」と認めている。

だが、暴言にしても、監督が顔と名前を出すよう指示した部員の謝罪動画にしても、言動が軽率すぎる。寮で共同生活を送る一番身近な監督が、頼りとされ、生徒に寄り添えなければ、誰が生徒を守るのか。

今年4月から校長補佐として、約500人が生活する寮の統括、生徒指導の統括、部活動の統括を任せられている学校側の期待も裏切った。信用が損なわれた今、刑事処分の可能性もある監督や、コーチに指導者の資格はない、と考える。

この際、学校側は、外部識者による第三者委員会を立ち上げ、暴力のうみを徹底して出しきるべきだ。さらに時間はかかるだろうが、中途半端なグレー決着では、失った信頼回復は望めない。【菊川光一】