清水エスパルスの元日本代表MF乾貴士(34)がワールドクラスの一撃を決めた。京都戦の後半23分、ゴール左斜め45度の位置から右足ミドル。加入後5戦目で挙げた初ゴールが決勝点となり、1-0で勝利した。規律違反を発端にC大阪を退団後、再起を誓って清水入り。ベテラン加入後のチームも5戦負けなし(3勝2分け)とV字回復し、J1残留へ1歩前進した。

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乾だから決められた鮮やかなゴールだった。0-0で迎えた後半23分、味方からの浮き球パスに反応。左サイドから走り込むと、バウンドしていたボールにタイミングを合わせた。「抑えて打つことは意識した」。右足ダイレクトで放ったシュートはゴール右上へ。横っ跳びしたGKの手も届かない完璧なコースを射抜いた。「たまたまですよ。まぐれです。もう次はないと思う」。初ゴールの喜びは控えめだったが、技術の高さが凝縮された1発にスタジアムもどよめいた。

得点直後はベンチメンバーも含めたチームメートにもみくちゃにされた。歓喜の輪の中で乾も笑っていた。「みんなが喜んでくれたことが何よりもうれしかった」。今年6月には規律違反を発端にC大阪を退団。引退も考えた中で芽生えた思いは「俺にはサッカーしかない」。オファーを受けた清水で再起を目指し、J1では4月以来の得点。正真正銘、清水の一員となり「みんなで勝利を喜び合えることがうれしい」とかみしめるように言った。

ヒーローインタビューでもサポーターに感謝の思いを伝えた。「清水の皆さんに助けられた」。加入に賛否あることも理解した上で日々の練習に打ち込んできた。最年長選手として自身の言動でチームをけん引。普段の練習では前向きな言葉をかけ続け、試合では頼れる存在として攻撃陣の先頭に立ってきた。

加入時に17位だったチームは5戦負けなしと復調。暫定ながら、1カ月間で順位は11位まで浮上した。チームの成長ぶりに乾も「みんなが同じイメージでできているし、いい方向に向かっていると思う。まずは残留。そこに向けて全力でやっていきたい」。残り7試合。清水に助けられた男が今、清水を助けている。【神谷亮磨】

◆乾の騒動の経緯 C大阪に所属していた4月にチームの規律を乱す行為があったとして、クラブから6試合の出場停止処分を受けた。C大阪によると、4月5日の柏戦の後半途中に交代を命じられた際に、サポーターの前で暴言を吐くなどし、試合後にもチームの規律、秩序を乱す行動があったという。乾は処分期間が明けた後も全体練習に参加せず、6月9日にC大阪が契約解除を発表。乾は「一度セレッソとの関係をリセットすることがお互いにとっての良い選択という結論になりました」などとコメントした。その後は親交のあった木山隆之監督が指揮官を務めるJ2岡山の練習に参加してトレーニングを積み、7月22日に当時17位に低迷していた清水への加入が決まった。