「常勝軍団」としてJリーグをけん引してきた鹿島アントラーズが苦しんでいる。4月1日のサンフレッチェ広島では、1-0からの終盤に2失点を喫し逆転負け。同9日には当時最下位だった柏レイソルに0-1で敗れ、同15日にはヴィッセル神戸に5失点と惨敗した。

かつては勝負強さを兼ね備え、古くは秋田豊氏をはじめ、鹿島のセンターバックがそのまま日本代表で活躍した。「だれが出ても鹿島」「内容が悪くても勝ち点を拾う」「1点取ったら負けない」。強い時代は、他クラブからこう評されてきた。

だが今は、かつての姿が薄れているのは否めない。国内タイトルは16年度を最後に遠ざかり、18年にアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で20冠を達成して以降、タイトルを手にしていない。

「新しい鹿島」をつくるべく、20年からブラジル出身のザーゴ監督を招聘(しょうへい)するも1年あまりで解任。その後を任されたクラブOBの相馬直樹氏も8カ月で退任した。22年にはスイス人のレネ・バイラー監督が就任も8月に契約解除。その後、現指揮官の岩政大樹監督が続く。

今季はタイトルを知るDF植田、昌子が加入し、岩政監督はこれまでの鹿島が手を付けてこなかった「ビルドアップ(攻撃の組み立て)」を、キャンプから重点的に取り組んできた。

だが、後方からボールをつなぐサッカーは一朝一夕にはいかない。チャレンジするチームがよく陥るのは後方でボールを動かし、ボールを保持はしているが、相手が怖いと感じるところに侵入できずに終わってしまうことだ。

実際、鹿島と対戦した他クラブの選手は「後ろで(攻撃の組み立てが)つまると蹴ってくるので、ある程度準備した形で守れた」と振り返っていた。相手の嫌がる攻撃が出せなかったことを意味していた。

後ろで動かすばかりでは、相手の守備は崩れないしスペースも生まれない。相手に怖さを与えるには、攻撃のスイッチを入れる縦パス、パスを受けた選手が相手のマークを外して前を向き、周囲と連動して相手の守備ブロックを破りゴール前に入り込むことだ。

そのためにはパススピードの速さ、速いボールを扱えるだけの技術、計算されたポジショニングが不可欠だ。選手のスキルを日々高めながら、チームに戦術を浸透させていき、長い年月をかけて完成されるスタイルでもある。

過去にも、つなぐスタイルを求めたチームは数多くあった。川崎フロンターレ、横浜F・マリノスは勝てない時代を経て、我慢強くスタイルを構築しタイトルを手にしたが、一方で勝ち星を拾えず、指揮官が途中解任され、挫折していったチームは数知れない。監督交代を繰り返して迷走し、そのままJ2に降格してはい上がれずにいるクラブもある。

鹿島はここ数年、指揮官の交代が続く。以前、鹿島の幹部に「スタイル構築まで勝てなくても我慢することはしないのか」と聞いたことがあった。その幹部の答えは「もし、そのまま引っ張ってスタイルが構築できなかったら、何も残らないことになる」と答えていたのを思い出す。

岩政監督はどうなのか。鹿島の吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)は「今すぐ監督を変えることはない」と続投を明言し「私と岩政監督が話す中で、考えている方向性は非常に近いものがある。その方向性に向かってやっていけば、おのずと良くなって来ると思う」と話した。続けて「焼け野原にはならない」と言い切った。

広島戦を例に挙げ「ある程度自分たちで主導権を握れた部分はあり、点を取るところはまだまだだが、サイドでの攻撃、守備でどう奪いに行くのか方向性としては間違ってない。能力ある選手がいるので、しっかり調整できると思っている」としている。

柏戦は、ミスをおそれて、無難なプレーだけに徹しているように感じた。これは個人的な意見だが、今季は降格は1チームのみだ。鹿島の選手たちには、ミスを恐れず、どんどん目指すべきサッカーをチャレンジしてもいいと思う。トライ&エラーを繰り返して強くなっていけばいいのだ。

懸念があるとすれば、選手が自信を失い、現在のやり方に疑心暗鬼となり、さらに深い闇に陥ること。だが、岩政監督は「ぶれずにやる」と、新しい鹿島の構築へ愚直にやることを宣言している。1勝して成功体験を得れば、一気にトンネルを抜ける可能性も秘めている。ここでまた、監督を代えれば、また0からのスタートで、大きな迷路に迷い込む。我慢の先に、光が見えることを信じて突き進むしかない。【岩田千代巳】