川崎フロンターレが柏レイソルを下し、前回20年度以来3大会ぶり2度目の優勝を成し遂げた。延長戦を終えて0-0。PK戦は10人ずつ蹴る死闘を制した。

伝統を引き継いだ強化方針で、再び、通算7冠目となるタイトル獲得にたどり着いた。21年から庄子春男氏(現ベガルタ仙台GM=66)から強化本部のトップを引き継いだ竹内弘明GM(51)は言う。

「基本的にはやっぱりフロンターレが大事にしてるものは続けていかないといけない」

「強いフロンターレ」の礎を作った前任者が大切にした「義理人情」をベースに、現場とのコミュニケーションは取りながらも、あれこれ口出しはしない。

今季はチームが一時リーグ戦で15位まで沈む事態に陥ったが、「自分たちが崩れないのが一番大事」。プロである以上、責任は取る覚悟ではいたが、監督や選手が難しい時期を超えて一段階成長する姿を温かく見守った。

ただ見守っていただけではない。夏には元フランス代表FWバフェティンビ・ゴミス(38)を獲得した。加入後、ゴミスは得点こそないが、チーム内の競争は激化した。「ある意味1つの起爆剤」。一流選手の獲得は、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)や後半戦諦めていないことを伝える強烈なメッセージとなった。鬼木達監督(49)もゴミスの加入後に、さまざまな要因が合わさってチームの状態が良くなったことを明かしていた。

「フロンターレファースト」の思いがある。97年に川崎Fを引退してからは、クラブの親会社である富士通でひたすら社業にいそしんだ。クラブの躍進を遠くから見ていた。17年にクラブから声がかかる。当時45歳。本社で人事部に所属していたため、クラブの人事や労務担当をするのかと思ったら、現場で強化を担当することに。「ちょっと俺、無理じゃない?」。2人の息子はまだ幼く、旅行好きの妻からは、土日が休みではなくなったことで「詐欺師」と言われた。

決め手は2つだった。自分がサッカーでこの会社に入ったから。そして定年が近づいていた庄子前GMの後を継ぐには伊藤宏樹(45)や中村憲剛(43)らクラブのレジェンドOBがまだ若く、「つなぎ」の役割が必要だと思ったから。偉大な前GMが去り、外の人間が急にGMに来た場合、川崎Fの伝統をガラッと変える可能性もある。GM職に就き、その考えも理解はできるようになった。「前のGMを全否定していろんな方向性を変えようとするって、それはもう人間だと多分そうだと思うんですよね。ダメだから変わったわけだし」。でも川崎Fはまだその時期ではないと考えていた。

庄子前GMの下で学び、21年からGMに就任した。クラブに来る前の本社での役職は「川崎勤労部シニアマネジャー兼企業スポーツ推進室長」。それなりの立場にあった。本社にも人脈がある「サラリーマンGM」だからこその強みもある。

「(中には)フロンターレのことをダメにしようとするやつらとかいるじゃないですか。『お金出さねえ』とかで。(本社に)顔が利くうちは、強化の立場でもそういうのが言える方が、もうちょっと長くできんのかなっていう感じですよね。自分というよりかは、なんか、フロンターレとしていいのかなって」

仕事にはこだわりを持って取り組むし、責任感も強い。しかし、ポストへの固執は一切ない。「期待しますよ。下のやつらにはもうどんどん、どんどんやってほしいし感じですね」。

約20年、サッカー界から離れていたため、一から学び直した。サッカー選手の経験はあったが、一流だった他の強化部のメンバーとは違うという認識を持っている。「サッカーは当然見ますけど、やっぱちゃんと役割を決めてやってるという方がいいんだろうなと。俺がサッカーが好きで、全部わかってて、判断するっていうようなことではなくて、自分は組織だったり、全体を見て、俯瞰(ふかん)して物事をやる」。強化の専門家である向島建スカウトや伊藤宏樹スカウトらに実務は任せ、最終的な判断を自分が下す。人事部時代に培った能力を組織運営に生かしている。

強化の立場でフロンターレの永続的な繁栄を思い描く上で、今季のタイトル獲得は最重要課題だった。

「タイトルをとるとらないって全然違う。自分たちがやってきたことが間違いじゃなかったっていうのが1つ証明できる部分。来季に向けてはめちゃめちゃ明るい材料にはなる」

最初にリーグ2連覇を達成した後の19年シーズンはリーグ4位に終わった。しかし、ルヴァン杯を取ったことで20、21年の2連覇につながったという。

「だから今年、再び天皇杯を取れれば、みんなのマインドが本当に(来季また)Jリーグを取りにいこうよっていうのは、より強くなるのかなという思いもある」

クラブ全体で常勝軍団のDNAは継承されていく。【佐藤成】