<J1:清水5-1東京>◇第28節◇4日◇味スタ

 天国の母にささげるゴールだった。9月29日に母をがんで亡くした清水FW原一樹(23)が、東京戦で弔い弾を決めた。FW矢島卓郎(24)の欠場で急きょ巡ってきた先発で、結果を出した。チームもリーグ戦では01年10月13日神戸戦(6-3)以来となる5得点で、5-1で東京に完勝した。

 たくさんの声援が、思いが、原の背中を押した。前半44分。右サイドの原へボールが来る。流れるような反転トラップでDFをかわすと、前に出てきたGKの頭上に浮き球シュート。GKに当たったボールは、ゆっくりとゴールに転がった。「無我夢中。あんなトラップ、あんなシュート、したことがない」。さまざまな思いが交錯した。「母さん、ありがとう」。快晴の空に向かって指を突き刺しながら、雄たけびを響かせた。

 先月29日、母裕子(ひろこ)さん(享年52)をがんで亡くした。学生時代から試合を見に来てくれていた母にがんが見つかったのは今春。誰にも言わず、練習とお見舞いで静岡と千葉を往復する日々を過ごしていた。その母が先月29日、天国に旅立つのを見届けた。

 深い悲しみに襲われたが、練習を休まなかった。「30分でもいいから出ますって言っていた」(長谷川監督)。病室で、余命を知らない母が「あと2、3年でいい。試合をもっと見たかったな」とつぶやいたことがあった。「(休むと)母さんが悲しむから」。母が喜ぶのは、サッカーをする姿だと知っていた。

 この日朝、FW矢島が3日練習中に右太ももを裂傷した影響で急きょ欠場になり、先発が巡ってきた。「背中を押してくれるサポーターがいて、天国から見てくれる母がいて、近くには(観戦に来た)家族もいる。それでやらないおれは無責任だと思った」。ハーフタイムには、指揮官が「一樹の気持ちに応えよう」と話した。「支えてくれたみんなに感謝したい」。試合後、サポーターに駆け寄り、何度も深く頭を下げた。

 帰り際、原は「できすぎですよ」と照れ笑いした。「母が力をくれて取れたゴールだと思う」。自慢の息子の勇姿に、天国の母も優しい笑顔を浮かべているに違いない。【浜本卓也】