ワールドカップ(W杯)決勝が18日午後6時(日本時間19日午前0時)に行われる。36年ぶりの優勝を目指すアルゼンチンと史上3カ国目の連覇を狙うフランス。14年W杯ブラジル大会優勝のドイツを支えた「チーム・ケルン」のゲームアナリストだった浜野裕樹氏(34)が、両チームのここまでの戦いぶりを分析。それぞれの強みと弱みをあぶり出した。

■采配光る

アルゼンチンはメッシだけが輝くチームではない。MFフェルナンデスはピッチ中央でゲームをコントロールし、MFマカリテルはシステム変更などさまざまなチーム戦術に対応する不可欠な存在。FWアルバレスは常に相手の裏に走り込んでマークを引き付け、最初の守備者としては相手の攻撃を限定する。それでもチームはメッシのためのグループであり、メッシのためにプレーしている。

スカロニ監督の采配も光る。1次リーグは4-3-3の布陣で、深くブロックを敷く相手にボールを保持し我慢しながらしのいだ。準々決勝オランダ戦は相手に合わせて5-3-2で戦った。準決勝はクロアチアにボールを持たせて中央を封鎖し、モドリッチのサイドからの攻撃を阻止するため4-4-2を使った。さらに相手がパワープレーに出ると、5-3-2に変えて逃げ切った。

試合ごとにシステムを変更することは毎回、チームの約束事を変えるようなもの。一緒にプレーする時間が足りない代表では簡単ではない。戦術的に柔軟な選手を一緒にプレーさせ、なおかつメッシが行わない守備的なタスクも同時にこなさなくてはいけない。

■柔軟戦術

その点では各選手に丸を、スカロニ監督に二重丸を、そしてメッシに花丸をあげたい。そのメッシは期待に応えるように5得点3アシスト(どちらも1位タイ)。クロアチア戦では気鋭のDFグバルディオルをいとも簡単に抜き去り、完璧なアシスト。得点王とアシスト王も見えている。

一方で弱みも見えた。相手がロングボール、スピードで攻めてきた時だ。同点とされたオランダ戦の後半残り15分。ピッチ上でカオスな状況が発生するとアルゼンチンの選手はボールを奪った後にカウンターを急いで行う傾向があり、再びボールを失う場面が何度もあった。フランス相手にこの弱点は修正しないと命取りになる。

■シンプル

フランスは、至ってシンプルな戦い方だ。相手の一番良い選手をマンツーマンでマークし、こちらの一番良い選手(エムバぺ)はカウンターのために前で待機。残りは個人能力で対応する。緻密な戦術、時計仕掛けのような分析やマッチプランは必要ないのかもしれない。

チームに隠したいような弱みはない。CBはほぼすべてのデュエルを制し、3人の中盤はエムバペが前に残るために生じる危険なスペースを埋める。準決勝モロッコ戦の2得点の通り、エムバペが5人の相手選手を引き付けたことで、味方がこぼれ球を押し込めるスペースを何度もつくれた。

興味深いデータがある。モロッコのクロスが味方に届いたのはたったの1回。クロスが悪かったのではなく、フランスの守備陣が献身的にクロスをはね返し続けたからだ。中でもCBコナテの功績は大きい。全選手で4番目に多くのタックルを行い、インターセプトの数でも9位につける。そのインターセプトの1位はチームメートのチュアメニ。中盤の汚れ仕事をすべて行う陰の功労者だ。攻撃の司令塔役となるグリーズマンも、守備での貢献が攻撃よりも大きくなっている。それでも3アシストは全体トップタイ。そしてすべてがうまくいかなくても、最後は堅守のGKロリスがゴール前に立ちはだかる。

弱みといえば、準々決勝のイングランド戦で自慢の攻撃陣が相手の守備に大いにてこずったことだろう。イングランドは4-5-1の布陣で危険なゾーンを閉じることに成功。サイドバックはサイドハーフと中盤の選手との連係がうまく取れており、エムバぺとデンベレは数的不利な状況に陥り沈黙した。この守り方はアルゼンチンにとっても大きなヒントとなる。

勝負の行方を占うとすれば、右サイドのメッシと左サイドのエムバペが同じサイドでぶつかるが、どちらが持ち味を発揮できるか。そこでの攻防が、優勝に直結することになりそうだ。(UEFA・A級コーチ)

◆浜野裕樹(はまの・ゆうき)1988年(昭63)7月4日生まれ、横浜市出身。日体大-ケルン体育大。ドイツ代表の分析グループ「チーム・ケルン」の一員として、14年W杯優勝に貢献した。現在もケルン在住で、小学校教員の傍らフォルトゥナ・ケルンのU15ブンデスリーガ監督兼任。UEFA・A級ライセンスのコーチ資格を持つ。