欧州選手権決勝が11日(日本時間12日)、ロンドン・ウェンブリー競技場で行われ、イタリアがPK戦の末にイングランドを下して2度目の優勝を飾った。イングランドは3人目ラッシュフォード(マンチェスター・ユナイテッド)が左ポストに当てて失敗すると、4人目サンチョ(ドルトムント)、5人目サカ(アーセナル)がGKドンナルンマに止められて敗れた。

サカは後半25分から途中出場。ラッシュフォードとサンチョに至っては延長後半15分からの投入で、プレーにほとんど関わっていない。加えて3人とも20歳前後と若い。テレビ観戦していた筆者は「終了間際に出てきた2人はいきなりPKだとキックの感触に不安がありそうだし、3人とも若くてこういう場面の経験が少ないから、PK戦では蹴らせない方がいいのでは?」と思っていたが、案の定3人とも失敗してしまった。

ところが筆者の考えとは少し異なったことを、ノルウェー・スポーツ科学大で教授を務めるジアー・ジョーデット博士が自身のツイッターに記していたので紹介したい。5年ほどPK戦における選手の心理状態などを研究してきたという同博士は、1976年以降のワールドカップ(W杯)、欧州選手権、チャンピオンズリーグにおけるPK戦についてすべて映像で調べ、その試合に参加した25人の選手をインタビュー。その他、15の強豪クラブでの調査などに基づき、PK戦での傾向などをまとめた。ジョーデット博士は第一に「PK戦は完全に精神的なゲームだ」と断言。その上でさまざまな例を列挙した。

▽W杯、欧州選手権、南米選手権では

1、プレッシャーが大きい(PK戦の順番があとになればなるほど)

2、シュート技術が低い(DF)

3、23歳よりも年齢が上

4、疲れている(120分間フルでプレーした)

これらの場合でキックの成功率が低くなる。筆者は若手に蹴らせるべきではないと思っていたが、2、3と4の点において、イングランド・サウスゲート監督が3人を蹴らせたのは少なくとも理にはかなっていたと言える(結果的に外したが)。

▽個人賞(バロンドールなど)の受賞もPKの結果を左右する

ポルトガル代表FWロナウド(ユベントス)らスーパースターたちの個人賞受賞前後のPK成功率を調べた結果、受賞前は89%、受賞後は65%に落ちることが分かった。賞をもらうこともPKにおける重圧をさらに高める効果があるもようだ。

▽ポジティブな気持ちが成功につながる

これは当然のようにも感じるが、この1本を外すと負けるという場面で蹴るPKの成功率は62%。一方、これを決めれば勝てるという場面では92%がキックを成功させている。

▽プレッシャーを強く感じている選手がとる行動がある

選手たちはこれを外すと負けるというプレッシャーのかかるPKでは、GKから目をそらす回数が多くなり、主審が笛を吹いてから早めにキックする傾向にあるという。国別に見ると、PK戦で最もそういう行動をとるのがイングランドとなっている。

▽主審の合図も成功率を左右する

選手が慌ただしくボールを置いたり、合図の笛がなってからすぐに蹴るのは成功率を低下させるが、選手が用意をしてから主審が笛を吹くのが早ければ早いほどキックは成功する。だから主審の笛をなるべく遅らせようとするGKは賢いGKだと言える。

▽誰もが感じる不安

04年欧州選手権でPK戦に参加した10選手をインタビューした結果、ポジティブなものやネガティブなものなどさまざまな感情の爆発に直面することが分かった。その中で全員が共通して感じていたのは不安な気持ちだという。また「延長戦直後」「センターサークルで待っている時」「PKへ向かって歩いている時」「PKの瞬間」の4つを比較すると、センターサークルにいる時が一番不安を感じるという。これはPKへ向かって歩き出した後は気持ちがシュートに集中していくからだとみられる。

▽PK戦は運?

「PK戦はただの運だ」と言っている選手の方が、不安を感じていることが分かっている。

▽PK戦もチームの戦い

仲間のPK成功を全員で喜んでいるチームの方が勝つ確率が高い。

ジョーデット博士によると、これらの結果を踏まえたPK練習を積極的に行うチームは増えているという。今回、欧州選手権で対戦したイタリアとイングランドがどういう練習をしているかは取材できていないが、少なくとも「PK戦は運」というだけでは勝利は遠のいてしまう可能性が高そうだ。【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)

PK戦を制して優勝を飾り、歓喜するイタリアの選手(ロイター)
PK戦を制して優勝を飾り、歓喜するイタリアの選手(ロイター)