アトレチコ・マドリードが4月26日にクラブ創設123周年を迎える今、2タイトルを射程圏内に捉えていることに、サポーターは期待に胸膨らませた夢心地の瞬間を過ごしている。
■冬補強のルックマンがフィット
今季、1億7800万ユーロ(約329億3000万円)もの大金を投じてメンバーの約3分の1を入れ替える大改革を実施したものの、前半戦でチーム作りに難航した。これが尾を引き、スペインリーグでは現在4位と期待外れな結果となり、リーグ優勝の可能性はなくなった。これにより、残る2大会に全力で臨める形になったのは不幸中の幸いである。
欧州チャンピオンズリーグ(CL)は、冬の移籍市場で補強したルックマンがうまくフィットしたことも大きく影響している。今季6回目となった14日の対戦でバルセロナを破り、9季ぶり通算7回目の準決勝進出を達成。あと3試合で初優勝に手が届くところまでやって来た。加えて、18日の国王杯では12-13年シーズン以来となる、13大会ぶり通算11回目の優勝を目指し、久保建英を擁するレアル・ソシエダードと対戦する。
バルセロナとの欧州CL準々決勝を振り返ると、まさに「激闘」の文字が相応しかったが、Aマドリードのプランが実った結果と言えるだろう。2試合を通じて我慢強く相手の攻撃に耐え、隙を突いてカウンターを仕掛けてゴールを奪い、ハイラインの背後を狙って2戦連続のレッドカードを誘発した。まさにクラブがスローガンとして掲げる、闘志と情熱を象徴する「Coraje y Corazon(勇気と心)」、不屈の精神を表す「Nunca dejes de creer(信じることを決してやめるな)」を体現したAマドリードらしい戦いとなった。
準決勝進出を勝ち取った最大の功労者が選手たちなのはもちろんだが、集中力を切らさずに180分間戦い抜くメンタリティーを植え付けたディエゴ・シメオネ監督の功績は非常に大きい。最近のAマドリードは以前と比べ、ボール支配率が高くなっているが、シメオネ監督が築いた基本戦術は変わらず、堅守速攻を主体としている。その戦い方に「保守的」、「退屈」などの批判があるものの、大きな成功をもたらしてきたのも事実だ。
■シメオネ監督の年俸は55億円?
11年冬の監督就任以降、8タイトル獲得、欧州CL準決勝進出4回、準優勝2回という輝かしい実績を残し、スペイン国内ではレアル・マドリードとバルセロナに並ぶ強豪としての地位を確立した。長期政権を望むクラブは世界最高額となる年俸約3000万ユーロ(約55億円)を支払っているとも報じられる。
非常に高額な気もするが、シメオネ監督就任以前、欧州CLにほとんど参加できていなかったこと、13年連続で出場権を獲得し、莫大な収入をもたらせていること、世界中に認知されているクラブのアイデンティティーやプレースタイルを確立した功績を考えると、安い対価なのかもしれない。また、シメオネ監督はこれまで欧州CLの準々決勝でバルセロナと4回対戦しているが、そのすべてを勝ち抜くという偉業を達成している。
Aマドリードが欧州CLで準決勝にたどり着いた要因のひとつとして、ホームでの勝負強さも挙げられる。97年3月のアヤックス戦での敗北を最後に、今回のバルセロナ戦で負けるまで、ホーム開催の決勝トーナメントで21試合14勝7分けという好成績を誇っていた。
なぜここまでホームで強さを発揮するのか? その原動力として、スタジアムを毎回満員近くまで埋め尽くす熱狂的なサポーターの存在も大きい。シメオネ監督就任後、会員数は右肩上がりだ。今季は12年前の2倍以上の15万人に到達し、シーズンチケットホルダーはスタジアムのキャパシティーの約9割を占める約6万1000人。チームカラーの赤白のグッズを身につけたサポーターが毎試合スタジアムを訪れ、相手に激しいプレッシャーをかけている。
■グリーズマン米移籍も発奮材料
Aマドリードは今季、絶対にタイトルを獲得しなければならないという強い意志を持って戦っている。その大きな理由は、通算10季所属する大黒柱のグリーズマンが今季を最後に、米MLSオーランド・シティーへ移籍するためだ。ワールドカップや欧州リーグなどを制した彼だが、欧州CLはまだ一度も手にしたことがない、喉から手が出るほど欲しいタイトルである。本人は「アトレチコで偉大なことを成し遂げたい」と有終の美を飾ることを望み、シメオネ監督も「このクラブで残された時間の中で、神様と運命が彼に求めているものを与えてくれることを願っている」と述べており、チームが一丸となってタイトル奪取に向けて準備を整えている。
2冠獲得という大きなモチベーションを持ってシーズンの最終局面に臨むAマドリードは、今まさにサポーターと共に夢のような瞬間を過ごしているが、来季以降はさらに華やかなものになりそうだ。それは、9080億ドル(約145兆円)の資産を運用する米投資ファンド、アポロ・グローバル・マネジメントの子会社であるアポロ・スポーツ・キャピタルにクラブが買収されたことで、多額の資金注入が予定されているためだ。これによりチームはさらなる進化を遂げ、新時代を迎えるのは間違いない。
Aマドリードはこの後、肉体的には大いに消耗しながらも、精神的に良い状態でRソシエダードとの国王杯決勝に臨み、欧州CLでは4回目の決勝進出を目指し、アーセナルと準決勝で対戦する。
【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)





