2020年のスポーツ界を、日刊スポーツの記者が取材をもとに振り返る恒例の連載「2020 取材ノートから」。

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やるせなさがにじむ光景だった。11月21日、スペインリーグの所属元であるレアル・マドリード戦。直後のピッチは試合の熱気が消え、閑散としている。ボールの上に座っていた日本代表のビリャレアルMF久保建英(19)は自分にむちを打つように立ち上がると、黙々とシュート練習とフィジカル強化に打ち込んだ。成長を示すべき試合で、与えられたのは後半44分からの約5分間。1-1の終了間際に勝ち越し点を奪うチャンスも、得意の細やかなタッチから右足で蹴ったボールはDFに阻まれた。

Rマドリード戦は、日本代表のオーストリアで行われたメキシコ戦の4日後だった。パナマ戦では決勝点となるPKにつながるパスをFW南野拓実に送った。DF4人の間にある、わずかなスペースを見つけてボールを受け、1つのパスでゴールに直結させる。自らの真骨頂といえるボールさばきだった。

「ずっと受けたかった位置に(MF遠藤から)素晴らしいボールがきた」。試合後の言葉が、頭から離れなかった。

今季から加入したビリャレアル。効果的な位置でパスを受けるシーンは決して多くない。主戦場でない左サイドで起用されながらも、規律を守りつつ時折ポジションを変えるなど工夫を繰り返す。ただ足元にボールを呼び込もうと、手でアピールしても、そこにパスが入らない。相手の防御が整い、攻撃手段がなくなったときにボールを渡されることが多く、今季は横パスやバックパスが増えた。

久保のドリブルはスペイン1部でも警戒されている。Rマドリード戦では、後方からドイツ代表MFクロースに強引に引っ張られて倒された。相手にとっては警告覚悟だが、まだフィジカル面で途上だけに“反則でつぶせばいい”というのが対戦相手にとって対策になっている。

それでも、いい位置で受ければ輝ける。それを示したのが、日本代表としてのパナマ戦だった。「ずっと受けたかった位置」の言葉は、あの一戦に限った思いではなく、今季を通しての思いに受け取れた。スペースを見つけ、生かす能力は、ドリブル以上の武器と言っていい。ビリャレアルでもゴール前への鋭いパス供給など、もう少しでアシストが成功するようなシーンは何度もあった。

Rマドリード入団時に買われた将来性に加え、19歳にしてより厳しく、高いハードルを課せられている。これまでも、期待とプレッシャーをものともせずに突き進んできた。直近の6日のリーグ戦でも、エルチェを相手にあと1歩でゴールというところまで迫った。今季は苦悩のシーズンも、再び上昇気流に乗るための雌伏の時期。来年の東京オリンピック(五輪)、翌年のワールドカップ(W杯)…。エースとして期待される19歳は勝負の冬を過ごしている。【岡崎悠利】

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