23日、東京・味の素スタジアム西競技場。冬の日差しが差し込むトラックに子どもたちの笑い声が響き渡っていた。16年リオデジャネイロ五輪の陸上男子400メートルリレー銀メダリストの飯塚翔太(27=ミズノ)が知的障害を持つ子ども約20人に「かけっこ練習会」(東京都障害者スポーツ協会主催)を行っていた。

アフリカの貧困国など多くの陸上教室の経験がある。ただ知的障害の子を指導するのは初めてだった。「環境面で大変な部分もあると思う。少しでも背中を押せれば」と話した。

まずは「よし走ろう」と声を張り、400メートルトラックをみんなで1周。その後、マーカーを置き、一緒にジャンプ。目線は子どもたちに合わせ、ハイタッチを繰り返す。「そのシューズかっこいいね」など雑談も交えながら、心地よい空気感を作っていく。時折、時に力を入れて走り、一流のすごみも伝える。最後はバトンを持って、みんなで渡し合った。

講演会ではパワーポイントの資料を自前で作成するが、同様に陸上教室のメニューも自ら考える。あらかじめ頭の中で内容を組み立てながら、参加した子どもたちの感触を見て「微調整する」のだという。「今日は僕がしゃべるより、積極的に体を動かして、みんなが後ろから付いてくる方がいいかなと思って」と話した。

イベントが終わると、参加した子ども全員の首にリオ五輪の銀メダルをかけた。そして1人ずつ写真撮影に応じた。人を笑顔にするのが好きな実直な人柄。イベントには銀メダルを惜しみなく、持ち歩く。幾多の人に触ってもらったメダルはたくさんの傷が入り、ひももボロボロ。だが気にしない。むしろ、粋に感じる。

飯塚 家にメダルを置いていても、ただ鉄くずと同じなので。いろんな人に見せて、意味が発揮されるものなのかな。

メダルを手にして人が笑顔になるのを見ると、自身のモチベーションも高まるのだという。子どもたちとは「また2年後、メダルを持って報告にくるよ」と約束し、別れた。控室に戻っても疲れた様子などなく、充実感が漂っていた。20年東京五輪(オリンピック)のメダル。結果の先にある意義を感じている。