男子マラソンの川内優輝(32=埼玉県庁)が、小雨の中で公務員ラストマラソンで疾走した。2時間9分20秒の8位で、日本人2位だった。

4月のプロ転向を前に、公務員として最後のマラソン。「今回が最後になり、感慨深い。11年から埼玉県庁になって、当時は24歳。今は32歳でずいぶんと年をとったなと思うけど。32歳から再チャレンジ、わくわくする世界が待っている」。新しい世界に飛び出すために、今秋の世界選手権ドーハ大会を目標に掲げ、帽子なしのランニングスタイルで走った。

17年世界選手権ロンドン大会。背水の覚悟で日の丸を背負った。序盤に看板に激突して、その後に段差で転倒。20キロすぎで先頭集団から遅れた。しかし終盤に魂の猛追を見せた。鬼の形相で前を追って、2時間12分19秒の9位だった。8位入賞までわずか3秒、足りなかった。ゴール直後は額を地面につけて倒れ込んで、救護室に直行した。

「ロンドンの悔しさはプロ転向の理由。代表を辞めるよりも仕事を辞めたい。そっちになりました」

世界的にも異質な「公務員ランナー」。毎週、毎週レースに出る独自スタイルも大きな注目を集めた。いつだって、称賛と批判がつきまとった。川内は「『公務員をやりながらで偉い』という人もいれば、『公務員はひまだからできる』という人もいる。民間企業なら社長のひと声で競技優先もあるでしょうが…」。

海外レースから早朝に帰国して、勤務先に直行する日々。勤務先が替われば、休日出勤して深夜2時まで引き継ぎを行った。公務員であることにも、日本代表であることにも、全力だった。だがロンドンの3秒差に限界を思い知らされた。

「代表プラス公務員のプレッシャーに負けた。板挟みで無理だなと、精神的に厳しかった。公務員だと、最高の調整ができない。若いころのギラギラした『このやろう』という気持ちもなくなってきていた」。

32歳でのプロ転向は、すべてを吹っ切るため、そして自分の伸びしろを信じている証しだ。

長く親しまれた「公務員ランナー」として、ひと区切りを迎えた。すでに出場権を得ている「マラソン・グランドチャンピオンシップ(MGC)」よりも世界選手権ドーハ大会での代表入りを熱望している。すべてはロンドンでの屈辱を晴らすためだ。「選んだ道を突き進むにはドーハにいきたい」と目標を胸に抱いて、雨を切り裂いて走った。【益田一弘】