新しくなった国立競技場で、東京オリンピック(五輪)を目指す新星が初の日本新記録を樹立した。女子1500メートルで田中希実(20=豊田自動織機TC)が4分5秒27をマークし、日本記録を14年ぶりに更新。7月に3000メートルで日本新、1500メートルで日本歴代2位をマークしていた伸び盛りのホープが、まばゆい輝きを放った。

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新しい国立競技場で、田中が狙っていた日本新記録をたたき出した。序盤から果敢に引っ張り、残り1周でスパート。スプリンターのように前傾し、鋭く腕を振り、卜部ら後続を一気に突き放しゴールへ駆け込んだ。「無心で走った。レース自体は記憶にない。記録を出せてうれしいし、安心した」と喜んだ。日本トラック界の未来を担う20歳が、“新国立日本記録1号”を刻んだ。

従来の日本記録4分7秒86は、同郷、兵庫県小野市出身の小林祐梨子さんが保持していた。7月の北海道遠征後、大先輩と会話を交わす機会があった。「日本記録を出したいという気持ちが高まった。うれしい気持ちを祐梨子さんに伝えたい」と感謝した。

同志社大に通うが陸上部には所属せず、父の健智コーチと二人三脚。幅広い距離を高いレベルでこなし、本来なら東京五輪があったはずの今夏に大きく飛躍した。7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ士別大会では1500メートルで日本歴代2位、4日後の同深川大会では3000メートルで日本記録を18年ぶりに塗り替えた。目指すは「800メートルから5000メートルまで走れるマルチランナー」だ。

昨秋の世界選手権で決勝に進出した5000メートルでは東京五輪参加標準記録も突破している。この日の1500メートルのタイムは東京五輪の参加標準記録にまだ1秒ほど及ばないが進化は証明。単純比較はできないが、16年リオデジャネイロ五輪の優勝タイムを上回っており、希望は膨らむ。「来年は東京五輪がここである。今日みたいにいい走りをしたい」。1年後へ向けて、さらなる成長曲線を描く。【奥岡幹浩】

◆田中希実(たなか・のぞみ)1999年(平11)9月4日、兵庫・小野市生まれ。小野南中3年時に全国中学校大会1500メートルで優勝。西脇工高を経て、同大1年だった18年のU-20(20歳未満)世界選手権の3000メートル優勝。19年世界選手権5000メートル14位。目標は「800(メートル)から5000(メートル)まで走れるマルチランナー」。母千洋さんは北海道マラソンで2度の優勝。153センチ、41キロ。