数々の苦悩を乗り越えた。自己記録10秒00の山県亮太(28=セイコー)がついに挑み続けてきた「10秒の壁」を突破した。

決勝で追い風2・0メートルの条件下、日本新となる9秒95で優勝した。桐生祥秀(25)、サニブラウン・ハキーム(22)、小池祐貴(25)に続き、日本人では史上4人目の9秒台スプリンターになった。

   ◇   ◇   ◇

山県は今季からアスリートには珍しい練習を導入した。ボイストレーニングだ。基本的に火曜日。午前中に約3時間も防音室にこもる。「ワー」「アー」などと声を出し続けている。

歌がうまくなりたいわけでも、大声を出したいわけでもない。結果が出ない時間が続き、神経のバランスが乱れ、寝付きが悪くなっていた。つきまとう不安を少しでも取り除くために取り入れた。「呼吸は自律神経に作用しうる。息の吸い方、吐き方から変えていかなければいけない」。腹式呼吸を身に付け、乱れていた「神経」を整えた。その呼吸法ができていないと、声はうまく出し続けられないという。「体の使い方が難しく、頭を使うので、頭が疲れる感じがします」。ボイトレで呼吸を整え、メンタルを安定させた。視野を広げた練習も、復活を超えた進化の裏にあった。【上田悠太】