陸上の布勢スプリント(6日、鳥取・ヤマタスポーツパーク)の男子100メートルで9秒95の日本新記録を樹立した山県亮太(28=セイコー)の走りを、100メートル元日本記録保持者の伊東浩司氏(51=甲南大女子陸上部監督)が解説した。

山県選手は追い風2・0メートルなのに、9秒95を出したことにすごみがある。よくまとめて走れたなという印象。2・0メートルは絶好とも思われるが、そうとも言えない。経験上、2・0メートルもの追い風になると、体が押されすぎて、足を制御することが難しくなる。回転が鈍ってしまう。恐らく、山県選手も、もう少し弱い風だった方が、出力は高まっていたと思う。1メートル前後の追い風で、大会の雰囲気もよく、争う相手も強ければ、アジア記録(9秒91)に近い記録でも走れるだろう。

18年の時は力感があるイメージだったが、今はより省エネというか、効率的な走りに見える。度重なるけがで、それを再発しないよう、体の無駄な動きが消え、スムーズとなった。まだ少し肩には力が入っていたが、より体はぶれていなかった。完成形のフォームに近づいている。

また五輪について考えると、予選を10秒01(追い風1・7メートル)でしっかり走った事も、すごく価値がある。五輪では予選も準決勝も、その日の1本目のレース。1本目から、うまく走りきれないと次に進めない。それを見据えた意味でも、今回の走りは大きい。

精密機械のように正確にスタートで前に出て、後半も失速しない。レースの形が確立し、記録も出ている。織田記念も勝ち、そして今回のインパクトもある。日本選手権へ向けて、他のライバルに心理的な影響を与えることもできただろう。