元世界王者が未開の地を開拓する。19年世界陸上選手権の競歩男子50キロで優勝した鈴木雄介氏(37、サトウ食品新潟アルビレックスRC)が今春、新潟食料農大陸上部のコーチに就任。新設された競歩ブロックで指導をしている。

15年に20キロ競歩で世界記録を樹立するなど、世界の頂点に立った経験を土台に、将来の五輪メダリスト育成を目標にしている。

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周回を重ねる部員と並びながら、鈴木コーチはアドバイスをした。練習中、スムーズな足の運び、無駄のないフォームで部員とともにトラックを踏み締め、息を切らさずに気がついたことを話しかけ続けた。

「競歩はフォームをマネしたり、参考にすることが大切」。今年から新設された競歩ブロックに7人の部員が入部した。全国を巡って自らスカウトした1期生のためにウオーキングを披露するのが指導のベース。細身で筋肉に覆われた体形は現役時代のままだ。「学生と一緒に練習しながら、機会があったら地方のレースなどに出たい」と笑う。

4月からサトウ食品新潟アルビレックスRCのスタッフになり、新潟食料農大でコーチを務めている。実業団の富士通に所属していた昨年7月、現役引退を表明した。学生年代の指導者を目指していたところ、同クラブから打診を受けた。出身の石川と同じ北信越地区だが、新潟から競歩のトップ選手は出ていない。「インカレ、日本選手権で優勝し、五輪で金メダルを取る選手を出したい」。未開の地から世界レベルの選手を育てる目標がある。

15年に20キロで当時の世界記録1時間16分36秒を樹立。同50キロで19年世界選手権優勝。選手にとっては正真正銘のレジェンドだ。昨年の全国高校総体5000メートル競歩5位の六本木直斗(群馬・樹徳出)は「鈴木さんと一緒に競技ができるのが幸せ」。同6位の谷村瑛基(愛媛・宇和島東出)も「動画でフォームを参考にしていた。その人が目の前にいる」と羨望(せんぼう)のまなざしを向ける。

母校順大の大学院でコーチングを学んで指導の準備してきた。「僕が怒っても怖くないので」(笑い)。練習後のクールダウンは会話の時間。練習後は質問に丁寧に答える。「競歩だけでなく、世の中の役に立つ人間になってもらいたい」。選手と同じ目線で、汗をかきながら育成していく。【斎藤慎一郎】

◆鈴木雄介(すずき・ゆうすけ)1988年(昭63)1月2日生まれ、石川県出身。小松高では05年の全国高校総体競歩で優勝、世界ジュニア選手権に出場。順大に進み、09年の世界選手権に出場。卒業後、富士通に入社。12年ロンドン五輪に出場。15年の全日本競歩能美大会20キロで当時の世界新記録を樹立。19年世界選手権50キロで優勝した。昨年7月に現役を引退。今年4月にサトウ食品新潟アルビレックスRCのスタッフ、新潟食料農大陸上部コーチに就任。