13日開幕の陸上世界選手権(東京・国立競技場)に男子100メートルのサニブラウン・ハキーム(26=東レ)と、同走り幅跳びの橋岡優輝(26=富士通)が出場する。
両選手をマネジメントしているのは、株式会社UDN SPORTS(東京都港区)の井上雄太マネジャー(28)。世界で活躍するトップアスリートを近くで支えてきた。「自分にとっても彼らにとっても、一生に1度の東京での世界陸上になる。後悔のないように走って、跳んでもらいたい」と心待ちにしている。
4歳から大学3年の途中までサッカーに打ち込んできた井上さん。2019年にUDNに入社したが、21年にサッカー関係の旅行代理店に転職し、スポーツビジネスのキャリアを積んだ後、昨夏に再び、UDNに復職した。
復帰1年目で任されたのは、サッカー選手ではなく、陸上選手のサニブラウンと橋岡のマネジメントだった。初めての他競技との出合いとなった。
マネジャーの業務は多岐にわたる。日々のスケジュールや合宿、遠征の予算管理、宿舎や練習場所の手配だけにとどまらず、メディア取材の窓口対応まで。選手が競技に専念できる環境をつくるための「何でも屋」と井上さんは笑って説明する。
未経験競技の世界に最初は戸惑ったが「何も分からない状態から本人たちと話したり、レースを見たりしながら、知識を蓄えてきました」。年齢が2人の2歳上と近いこともあり、サニブラウンと遠征先でカフェ巡りもする。橋岡ともオフの日に食事を囲む。競技面での助言はプロの指導者に任せるもので、自身ではできなくとも、精神面では誰よりも近い距離で寄り添ってきた。
昨夏のパリ五輪(オリンピック)代表でもあるスプリンターと、ジャンパーの第一印象は「とにかく賢い」だった。特に、日本勢で歴代唯一の世界選手権2度の決勝を知るサニブラウンの話が忘れられない。
「本人は100メートルをよく『かけっこ』って言うんですよ。みんなが通ってきた道ですけど、それを『本当の極みの域まで追求していく。そこが深い』って」
日本が誇るスプリンターが見ているのは1秒や2秒ではなく、コンマの世界。練習では直線を走り終わるたびに映像や数値を何度も見直し、コーチらと議論を重ねている。わずか10秒前後で決まる勝負の領域に人生をささげるサニブラウンの姿に、井上さんも自然と魅了されていった。
一方、積み上げてきた日々の努力が報われない怖さも知った。
7月の日本選手権は、直前の6月下旬に負った右股関節上部の骨挫傷が響き、キャリア初の予選敗退を喫した。それでも「陸上界をここ数年引っ張ってきた人間として、自分としては走らなければいけない」と強行出場したサニブラウンの決断に「これまでにない強い気持ちを感じた」と胸を打たれたという。
苦境を乗り越えたサニブラウンは13日、橋岡は15日に、まず予選に臨む。男子100メートル予選は開幕日13日の午後8時35分に号砲が鳴る。
大会期間中、井上さんはスタンドから2人を応援する予定だ。「1年前から頑張ってきた彼らが、気持ち良く結果を出すところを見守るだけですね」。出会ってから間もなく1年。期間は短くとも濃密だった3人4脚の歩みの成果を、実に34年ぶりとなる東京大会で見せつける。【泉光太郎】

