<陸上:日本選手権兼世界選手権代表選考会>◇第2日◇8日◇東京・味の素スタジアム◇男子100メートル決勝

 日本初の9秒台を狙う桐生祥秀(よしひで、17=京都・洛南高3年)が、初めての日本選手権で優勝を逃した。追い風0・7メートルの決勝でロンドン五輪代表の山県亮太(20=慶大3年)と真っ向勝負し、0秒14差の10秒25で2位。敗戦を糧にして、代表に内定した世界選手権(8月10日開幕、モスクワ)で飛躍を狙う。

 ほおを紅潮させて、いつもより早口で言った。桐生は「悔しさがあります。悔しさがないといったらおかしい。自分が1番じゃなくて、山県さんが1番。もっともっと力をつけて、来年もこの舞台で戦いたい」。ゴール後は新王者に歩み寄って「ありがとうございました」と頭を下げた。

 素直に負けを認めた。スタートの反応時間は8人中6番の0秒140。「振り切ってスタートしよう」と前日7日の予選から0秒053も速くなった。中盤から加速したが、50メートル過ぎに左隣で先行する山県が目に入った。「追いつけなさそう。離れていて無理かもしれないと。心でも負けた」。予選は逆転1着だったが、この日は心が揺れて、力んだ。目標とした10秒0台にも届かず。10秒01を出した4月の織田記念国際のリベンジをされた。「織田で1度勝って自信もついたが、守りに入った部分もあった」。9日間で11レースという過密日程で疲労があったが「自分の選んだ道」と潔く言った。

 それでも初の日本選手権で、17歳が2位。戦後初の高校生王者は逃したが、胸を張れる順位だ。世界選手権の代表にも内定したが「うれしいけど、このままでは世界で戦えない」。

 最高の教材は隣にいる。「憧れの選手」である山県だ。昨年ロンドン五輪で自己ベスト10秒07を出したレースは、滋賀・彦根市の自宅でテレビ観戦。「日本のユニホームを着てかっこいい。(準決勝も)前半までは勝たれていた。世界の舞台でも動じない。自分はそこが足りないところ」。最大のライバルがお手本だ。

 次戦は中4日で高校総体近畿大会(奈良・鴻ノ池)に出場する。日本初の9秒台スプリンター争いについて、山県が「9秒台を出す選手は、それなりの器が必要。精神的動揺、甘えやチヤホヤもされる。人間性が出来ていないと後でつらい思いをする。彼にそれを背負わせたくない」と話しているが「(ライバルに)自分の名前を出してもらって励みにしたいが、そこでハイハイとなったらダメなので」と桐生。桐生ジェットが敗戦を燃料に変えて噴射する。【益田一弘】

 ◆桐生祥秀(きりゅう・よしひで)1995年(平7)12月15日、滋賀県彦根市生まれ。彦根南中学から陸上を始める。中学3年時に200メートルの全国2位になって洛南高に進学。4月29日の織田記念国際で日本歴代2位の10秒01を記録した。175センチ、68キロ。