<第91回箱根駅伝>◇3日◇復路◇箱根-東京(5区間109・6キロ)

 青学大8区の高橋宗司(4年)にとって、4年間で最も楽しく、短いレースだった。走る前は「また登るのか…」と構えていた終盤の難所「遊行寺の坂」が「あっという間に終わった」。同じ区間を走った2年前と比べ、10キロのタイムでは10秒しか上回ってない。だが、終わってみればさらに1分以上記録を縮めていた。「4年生の意地を見せました」。自身にとって2年ぶり2度目の区間賞。時折笑顔を見せ、最後は「20回ぐらいしました」とガッツポーズを繰り返しながらタスキを渡した。

 宮城県東松島市出身。東日本大震災では野蒜(のびる)地区にある実家が津波に襲われた。自身は既に東京の大学寮におり難を逃れたが、数日後、姉沙織さんは遺体で発見された。「姉が可能性をつくってくれた」。高校までは全国でも無名の選手。だが高3の時、中距離選手で「陸上オタク」だった姉とテレビを見ながら語り合い、箱根に出たいと思った。

 「姉のために走っているわけではない」。だが、22歳で亡くなった姉と同じ年になり「姉はこんなことを思っていたのかな、両親が姉のことをどう思っていたのかなと、分かるようになった」。家族を思い、両親に自分から電話やメールをするようになった。

 卒業後はきっぱり陸上をやめる。飲料メーカーに内定しており、そこでサイダーのCMを作るのが次の夢だ。だが、この日ばかりは「陸上をやめたくない」と心が揺らいだ。楽しいなんてしょせんきれいごと-。ずっと思っていたことが最後のレースで覆された。「最高という言葉以外見つからない。日本中で僕が一番幸せなんじゃないかと思います」。笑って陸上生活を終えた。【高場泉穂】

 ◆高橋宗司(たかはし・そうし)1993年(平5)2月2日、宮城・東松島市生まれ。鳴瀬二中では野球部に所属し、投手。中1で陸上を始める。利府高から本格的に陸上を始め、同3年には1500メートルで高校総体に出場。箱根駅伝は3度目で13年は8区1位、14年は5区11位。1万メートルベストは29分15秒42。173センチ、58キロ。血液型A。