18年平昌五輪で66年ぶりの男子連覇を狙う羽生結弦(22=ANA)の今季フリープログラムは映画「陰陽師(おんみょうじ)」の劇中曲を使用した「SEIMEI」。2季前の再演を望んだのは羽生本人だけではなかった。カナダ人振付師のシェイリン・ボーンさん(41)は、今年4月の世界選手権から1カ月が過ぎた頃、羽生に「もう1度SEIMEIをやってみたら」とメッセージを送った。

 「なぜ、この『SEIMEI』が彼に合っているのか。それは登場人物(安倍晴明)が強い心を持っているからです。ユヅはかわいらしい一方で、とても強い」。何より羽生がこのプログラムに心酔していること、それが大事と指摘する。「滑っていて彼がこの曲が好きなのが分かります。スケーターが音楽とストーリーにほれ込み、ワクワクしていれば、それは動きに伝わります」。

 選曲や衣装などは、振付師主導で決めることが多いが、「SEIMEI」は2季前、羽生自身が提案した。実際に氷上で振り付けをする前に、ボーンさんは映画や、日本伝統の舞踊を見た上で、羽生と会話を重ね「物語の方向性を見つけました」。そうして、能や歌舞伎の動きや陰陽師が戦う姿などを取り入れた「和」のプログラムが生まれた。ボーンさんは羽生に「リンク全体が雲に覆われていて暗闇に包まれている状態を想像して。あなたの動きに合わせて光と太陽が差し込んで、雲や暗闇が消えていくの」と滑るうちに、光が差していくイメージを与えた。

 2季前には4回転ジャンプ3本だったのが5本になるなど難度は数段上がり「SEIMEI、ファイナルバージョンです」と話す。特にジャンプ前後の動きは難しくなっているという。「彼は五輪で優勝し、4年が過ぎた今も成長を続けている。多くの困難を乗り越えてきたことがスケーターとして、男性として、人として成長につながっていると思います」。振り付けたボーンさん自身も、レベルアップした羽生の演技を楽しみに見つめている。【高場泉穂】

 ◆シェイリン・ボーン 1976年1月24日、カナダ・オンタリオ州生まれ。元アイスダンス選手で03年世界選手権金メダル。96-97年、01-02年と2度GPファイナル優勝。03年の現役引退後、振付師として活躍。今季は他に樋口新葉フリー「スカイフォール」、ネーサン・チェンSP「ネメシス」も担当。

振付師のシェイリーン・ボーン
振付師のシェイリーン・ボーン