「飲食店は時短営業を強いられているのに、なぜテストイベントは開催できるのか」「市民には自粛しろと言っているのに、どうして人を集めてマラソンをするのか」

東京五輪のテスト大会となる「札幌チャレンジハーフマラソン」で、すすきの交差点を通過する選手たち(撮影・佐藤翔太)
東京五輪のテスト大会となる「札幌チャレンジハーフマラソン」で、すすきの交差点を通過する選手たち(撮影・佐藤翔太)

5日に札幌市で行われた東京五輪テストイベントの男女ハーフマラソンを報じるニュース番組で紹介された札幌市民の声である。怒りの矛先は感染拡大への懸念を通り越し、いずれも「東京五輪」への特別扱いに向けられたものだ。

ちなみに前日4日の北海道の新型コロナウイルス感染者数は今年3番目に多い233人で201人が札幌市民。3日に北海道知事と札幌市長が緊急会談して、「まん延防止等重点措置」を札幌市に適用するよう5日にも国に要請することで一致していた。テストイベントはそんなタイミングで開催された。

長引くコロナ禍で、不自由な自粛生活は長期間に及び、生活の不安が広がり、医療も逼迫(ひっぱく)し、みんなが我慢を強いられている。なのになぜ「五輪」だけは無条件に許されるのか…札幌市民の声には、開催を疑問視する多数派の疑念が凝縮されているようだった。

緊急事態下で自由を制限されたり、自己犠牲を強いられる人々は、他人にも同じ行動を求める。それは人間心理でもある。だから「開催が決まっているから」という回答では溝は深まるばかりだ。コロナ禍が収束しない中であえて五輪を開催する意義を、丁寧に説明してこなかったツケが回ってきているのだと思う。

米ファイザー社からの東京五輪・パラリンピック出場選手、監督、コーチへのワクチン無料提供決定を発表した丸川五輪相(撮影・鎌田直秀)
米ファイザー社からの東京五輪・パラリンピック出場選手、監督、コーチへのワクチン無料提供決定を発表した丸川五輪相(撮影・鎌田直秀)

6日に国際オリンピック委員会(IOC)が東京大会に参加する選手団に特別にワクチンを提供すると発表した。各国に配給しているものとは別枠だという。主催者にとっては起死回生の一手だが、国内では高齢者への接種が遅々として進まず、医療従事者でさえ1回目がやっと半数を超えた程度。「五輪だけ特別なのか」の声がさらに強まりはしまいか。

開幕まで3カ月を切ったが、依然として世論の7割超が今年の開催に反対している。主催者側は「安全、安心の感染対策」を繰り返しているが、それは開催する上で当たり前のこと。コロナ禍で五輪の意義があらためて問われている今、ワクチンより大事なのは、それでも開催する意義、五輪の価値を、実のある言葉で忍耐強く説明し続けることではないか。【首藤正徳】