悔しいけど、誇らしい。 ゴルフの全英女子オープン最終日を見終わった直後の心境である。首位と5打差でスタートした渋野日向子は、何度も脱落しそうになりながら、粘り強さとミラクルショットで食らい付き、最終18番まで優勝争いに絡んだ。終わってみれば優勝したアシュリー・ブハイに1打差の3位。「あっぱれ」とたたえたい。

2連続ボギーの後、2オンに成功した5番のイーグル、アゴの高いバンカーに入れてボギーとした直後の9番のバーディー、そして優勝に望みをつないだ17番のバーディー……ほころびをすぐに繕う精神力と勝負強さに感動した。伝統の大会で優勝争いの重圧に手足を縛れることもなく、最後まで攻め続けた姿勢に、日本女子の底力を見た思いがした。

もう一つ特筆すべきことがある。渋野をはじめ、畑岡奈紗、山下美夢有、堀琴音と、15位タイまでに4人の日本勢が名前を連ねたことだ。ショットの安定感やパッティングの精度を含めて技術レベルが高く、伝統のメジャーでも、気後れすることなく、最終日まで集中を切らさずに自分のプレーができる。近年の日本女子の厚い選手層、レベルの向上をあらためて実感させられた。

彼女たちのプレーをテレビで見ながら、あらためて宮里藍さんの存在の大きさを感じた。03年に高校生でプロツアーを制して一躍時の人になると、プロ1年目の04年に5勝、05年は6勝と大活躍。低迷していた女子ツアーを、男子をしのぐ人気に押し上げた。06年の米ツアー参戦後も、身長155センチの小さな体で、米通算9勝、世界ランキング1位など偉業を達成した。

調べてみると、03年の日本女子ツアーは年間30試合だったが、宮里さんのプロ1年目の04年から試合数が右肩上がりに増えている。11年の東日本大震災や20年のコロナ禍による試合数の減少はあったものの、今年は38試合。賞金総額は過去最高の42億9600万円で、20年前の2倍以上。宮里さんは日本女子のプレー環境を劇的に変えた立役者でもあった。

渋野や畑岡ら、今の日本のトップ選手には、幼少期から宮里さんという世界への「道しるべ」があった。一方、宮里さんの活躍に触発されてジュニア世代の普及、強化が全国レベルで広がり、環境が好転した国内ツアーに、若い世代が次々と台頭するという好循環になっている。国内に築かれたしっかりとした土台が、日本勢の好成績につながっているのだろう。

日本人初のメジャー2勝目をあと1歩で逃した渋野は、テレビのインタビューで「すごく悔しい」と涙を流した。それがまた頼もしかった。きっと近いうちにメジャーで優勝する日本人が、次々に出てくるに違いないと思った。今の日本選手にとって、メジャーとはいえ優勝と1打差の3位は「健闘」ではないのだ。今回の結果に「誇らしい」と満足してしまった自分を少し恥じた。【首藤正徳】

最終ラウンドを終え、手を振る渋野日向子(共同)
最終ラウンドを終え、手を振る渋野日向子(共同)
最終ラウンドを終え、インタビューで笑顔を見せる渋野日向子(共同)
最終ラウンドを終え、インタビューで笑顔を見せる渋野日向子(共同)