今回のコラムは、4月16日に沖縄県宮古島で開催された宮古島トライアスロンで見事、女子総合優勝に輝いた戸原明子さんと夫の開人さん(同大会男子総合4位)にお話を伺いました。
明子さんは大手菓子メーカー勤務で2歳の息子さんを持つ1児の母です。
開人さんはトライアスロン日本ロング界のトッププロアスリート。今回の宮古島大会では直前の体調不良によりベストパフォーマンスには届きませんでしたが、2人そろって入賞を果たす日本最強トライアスロン夫婦なのです。
戸原夫婦とは元々親交があり、明子さんの優勝と開人さんの闘志に感動し、ぜひコラムに書きたいという思いからインタビューをさせていただきました。
トライアスロンを愛する家族の形に迫りたいと思います。
■予想外の出来事に驚き、感動
-優勝おめでとうございます!宮古島の優勝の率直な気持ちは
明子さん「ただただ、うれしいです!正直、他の有力選手と比較して自身の実力不足なことは承知だったので優勝は厳しいと思っていました。しかし、レースは何があるかわからない。『もし、チャンスがきたらつかみたい』という思いでレースをしていました。今回は運が良かっただけですが、何はともあれ勝つことができ、息子と同伴フィニッシュもできたので最高の思い出になりました」
-同伴フィニッシュは写真を見ただけで自然と涙が出てくるくらい感動しました。開人さんからみて奥さまの頑張りはどのようにうつりましたか
開人さん「妻へはレースの結果を求めていないので、目標に向かって楽しんでもらえればOKなスタンスです。宮古島も優勝ではなく、3位に入れれば楽しいよね、という目標設定でしたが、1位でフィニッシュエリアに戻って来た時は予想外の出来事に驚きつつ、感動しました。良いものをみせてもらいましたね」
-3人でフィニッシュに向かっていくシーンも本当に感動しました! 普段は育児や旦那さんのトレーニングもありますがどのようにトレーニングを積んできたのですか
明子さん「普段は夫にコーチングしてもらっているので、夫のトレーニングの空き時間に、私がトレーニングできるようメニューを組んでもらっています。時にはバギーランで夫婦そろってランニングの1キロメートル周回へ行き、リレー方式でインターバルをすることもあります。交互に走って子守して、わが家らしいトレーニングです。子供が小さいので思い通りにできないことももちろんありますが、どんな状況であれ、1回1回のトレーニングは大切に、そして楽しむ気持ちを忘れずに行うようにしてます。今回に限らず、今はレースに出られることに対する感謝の気持ちが何より大きくて。夫や息子、そして親にも感謝して、そのレースを無駄にせず、必ず笑顔でフィニッシュすることを心がけています」
-ママになっても夢や目標も持つことはいつから決めていましたか
明子さん「夫がIRONMANプロカテゴリーでレースに出ているので大会に帯同したり、私自身もIRONMANをやり始めてからSNSで海外プロ選手の情報を見るようになった時です。海外の女子選手の中には出産してすぐレースに復帰する方が多く、初めは本当に驚きました。妊娠中もトレーニングをし、IRONMANという過酷なレースへ産後3~4カ月で復帰されます。信じられない半面、子守をしながら生き生きとトレーニングされていて、とてもカッコいいと思いました。また日本のロングの先輩方も育児しながらどんどん強くなっていらしたので、私もそんな母親になりたいと思うようになりました。世界のトップ夫婦が2人の子供も育てながらレースに参戦し、結果をおさめている姿にも憧れを抱いて『私もこうなりたい!』と。IRONMANが私の世界観を変えてくれました」
-素晴らしい考えですね。『母になったら自分の時間がなくなる』というのが当たり前だという概念が覆されます。
明子さん「私も妊娠中は周りの方々から『自分の時間は今しかないよ』と言われていて、覚悟はしていたんです。しかし、夫が臨月の時に『次のレースいつにする?』と話を持ちかけてくれて。『なんて最高な旦那なんだ!』と思いました(笑い)」
■子どもがいることで幸せが増す
-すてきな旦那様!最も旦那さんに感謝していることはありますか
明子さん「私がトライアスロンを楽しむ生活を当たり前に思ってくれていることです。夫がパートナーでなければ、今の私はないと思います。夫の理解・協力なくして、ここまで楽しむことはできません。夫に限らず、家族の協力がなければ夫婦で大会に出場することも難しいので、家族には感謝感謝です。夫は私がトライアスロンが大好きな気持ちを尊重してくれるので、プレゼントはバイクギアの空気抵抗を少なくする部品だったりすることが多いです(笑い)。いつかのクリスマスにはエアロブレーキ、誕生日にはエアロなハンドルバーを頂きました。光り物よりうれしい私も私ですが、これは戸原家ならではかなと思います」
-愛があふれてますね。開人さん、奥さまに感謝していることは
開人さん「なんだろうな(笑い)、一番はかわいい息子を産んでくれたことですね。夫婦ともに同じような価値観を持っているので、自分たちの理想のライフスタイルへ向けて、協力し合えるのは本当にありがたいことです」
-開人さんと結婚してから、明子さんの輝きが増したと思っていて。お互い目標をもつ子育て夫婦として、妻のために考えていることはありますか
開人さん「嫁は妊娠中のつわりがひどい中での出社に苦労していたので、育休中は子育てしつつ、好きな事をしてもらっています。育休が2年半まで伸びるとは思っていませんでしたが(笑い)。もうすぐ妻も復職ですが、共働きですし、家事育児は引き続き協力しあって行います」
-さまざまな家庭でライフスタイルりがが異なると思いますが、ここまで家事や育児をこなすお父さんはなかなかいないかと。夫婦のルール(決まりごと)はありますか。ぜひ戸原家ならではのエピソードなどがあれば
明子さん「育児と家事は半分こ!子育てを協力するという、言い方をよく耳にしますが、そこは『協力する』ではなく、『当たり前のこと』だと夫は思ってくれていて。お互いが協力し合うことで、家族が成り立つと思っています。私たち家族は毎日の料理は夫が担当です。夫のトレーニングに合わせて好きなものを食べられるし、夫の方が早く作れておいしいので。特に夫のこだわりのカレーが大好きです。本当においしくて。トライアスロンという有酸素運動をしても痩せない理由はおいしい食事のせいですね(笑い)。時間がある時はゴミ出しや買い物も一緒に行きます。家族で家の周りをお散歩したり、何げない時間がぜいたくに感じて、そういう家族との時間が大好きです」
-私も同感です。半分こ、協力し合うですね。海外では長期で家をあけることを法律で禁じられている国もあると聞きます。2人は育児は、大変だなと感じるか、楽しいと感じるか、どちらですか
開人さん「楽しいです!きっちりやっていないのもありますが、大変だと思ったことはないです。子どもがいることで圧倒的に幸せが増しています。こっちの都合で海外連れ回して移動している時は疲れましたが(笑い)」
明子さん「楽しいしかないです!夫がいうように大変と思うくらいきっちりやってないというのもありますが…。家族がいて、幸せと思うことしかないですね」
-協力し合っている夫婦だからこそですね。すてきすぎます。明子さんが育児と夫のサポートと練習の両立で大切にしていることはありますか
明子さん「夫の競技・トレーニングが優先という気持ちは常に持っています。私は趣味、夫は仕事、と言うことはわきまえているので。行動に移せているのか分かりませんが(笑い)。家にトレッドミルとローラー台が装備されているので、室内でのトレーニングの時は息子は1人で遊びながらおとなしく待っててくれます。最近では『ママ、走るね』というと、すんなりベビーゲートに入ってくれて、息子も小さいながらに理解してくれているのかなと。そんな2歳児に甘えがちですが、家族の時間は何より大事にしたいと思っています。5月から復職するので今より忙しくなると思いますが、私自身も競技面でまだまだ強くなりたい気持ちがあるので、家族タイムとうまくバランスを取りながら向上心を燃やそうと思います。以前は勤務地まで2時間の道のりでしたが、異動になり1時間となったので、『よしよし、これはいけるぞ』とやる気満々です!」
■家族で世界各地の大会に行ける幸せ
-明子さんの素晴らしいところは、不可能と思わないことですよね。その中にはもちろん家族の協力もあるかと思いますが、できる!と思える気持ちが原動力となって、形として表れていると感じます。
2人にとってトライアスロンとは
開人さん「トライアスロンはライフスタイルの一部です。レースの目標を立ててトレーニングに臨むのは日々の生活に張りをもたせますし、家族で世界各地の大会に行けるのはとても幸せなことだと感じます。それと、世間からしたら戸原家は変な家庭かなと(笑い)。あんまり人の迷惑にならないようにしながら楽しく生きていこう、そして、育児、家事、仕事、趣味をよいバランスで協力し合いながらこれからも生活していきたいです」
-最後に今後の目標、夢、野望を教えてください。
開人さん「私の直近の目標はハワイで行われる世界選手権に出場し、家族に現地で応援をしてもらうことです。あとは一番の楽しみは子どもの成長ですね。まぁまぁ変わった夫婦である私たちの子がどんな子になるのか!? 温かく見守りたいと思います」
明子さん「私は今年で30歳になりロングの強豪そろいといわれる30~34歳カテゴリーにあがります。そんな30代でIRONMAN世界選手権のエイジ表彰台(5位以内)に上ることが目標です。これまでIRONMANを通じていろんな意味で世界の広さを知りました。プロだけでなくエージグルーパーにもスーパー母さんがたくさんいます。もっと世界を見て価値観を広げ、刺激を受けながら、私も世界の強豪エージの仲間入りすることが夢です。長い目で見た目標は稲田弘さん(91)の90代での記録を更新することです。とにかくトライアスロンが大好きなので、ずっとずっと続けていきたいです」
戸原夫妻、ありがとうございました。このインタビューを通して、お互いが尊重し合い、補い合い、支え合いながら歩んでいるすてきなご家族だと改めて感じました。
夫婦どちらかがアスリートという形は国内外でも増えてきましたが、夫婦そろってという形はなかなかみられないと思います。
「母になっても夢を持ち続ける」という明子さんの強い熱意と、「妻にトライアスロンを楽しんでほしい」という開人さんの思いが形になった宮古島大会優勝だったと思います。
これからも最強トライアスロンファミリー日本代表として、世界に挑戦し羽ばたいてほしいと心から願っています。(加藤友里恵=リオデジャネイロ五輪トライアスロン代表)