何十年ぶりだろうか。大自然の中に広がる銀世界。急な斜面をたくさんの人が気持ち良さそうに滑っている。ホテルの窓からスキー場を眺め、小さい頃の楽しい思い出がよみがえった。

石川県に生まれた私は、冬になると家族でスキーに行くのが恒例だった。しかし、飛び込みを始めてからはケガに気をつける生活となり、少しずつ疎遠になっていった。

競技柄、どうしてもプールに行くことが多くなってしまうわが家の子供たち。しかし、小さいうちにさまざまな競技に触れさせたい。そんな思いから、長女が6歳になったことを機にスキーへ行ってみることにした。今回は2歳の次女は夫に預け、2人で新潟県の苗場スキー場へと向かった。

6歳の長女とスキーを楽しむ筆者
6歳の長女とスキーを楽しむ筆者

しかし、私にとっても久々のスキー。娘に経験させたいと意気込んだものの、自信が無かった。そこで、元アルペンスキー選手の清澤恵美子さんと現地で合流し、スキーを教えてもらうことにした。恵美子さんとは現役時代に知り合い、かれこれ10年ほどの付き合いだ。アスリートの先輩であり、プライベートでもとても仲良くして頂いている。そんな強力な助っ人がいてくれたおかげで、何もかもスムーズに進んだ。

まずは、長女を初級のスキー教室へ。基礎を学ばせるために入れたが、見ていると隙あらば雪玉を作って遊んでいる。「せっかくのスキー教室なのに」と思いながらも、雪を楽しめていることはいいこと。とりあえず見守ることにした。無事スキー教室が終わり、基礎を学んだはずの長女と、いよいよリフトに乗って雪山へ。

見たところ、スピードが出る恐怖心は無さそうだ。しかし、うまく止まれない。これは致命的である。私の体の懐に娘が入り、一緒に滑っている時には問題ない。でも、いざ1人でとなると滑ろうとしない。止まれないことが分かっているからだ。恵美子さんにも、分かりやすく手取り足取り教えてもらった。それでも、なかなかうまくいかなかった。

今回は「新しいことへの挑戦」という気持ちで臨んだ。そのこともあり、温かい目で見守ろうと心では決めていた。しかし、だんだんとイライラしてきてしまう自分。

娘の出来ないことへのイライラというよりも、真剣にやろうとしない姿勢にいら立ってしまった。うまく滑れないと大泣きする娘。今日でスキーが嫌いになってしまうことだけは避けたい。子供の頃に感じた印象は、その後を大きく左右するからだ。私もいったん、心を落ち着かせ、娘の気持ちに寄り添った。

清澤恵美子さんから指導を受ける長女
清澤恵美子さんから指導を受ける長女

そして、お互いの気持ちが落ち着いたところで再チャレンジ。何とか下まで滑りきり、笑顔を取り戻してくれた長女。しかし、今日はもうおしまいにしたいと言われてしまった。私の中で、「もっとやりたい!」という言葉を期待してしまっていたことに気づいた。

彼女の気持ちを尊重し、ロッカーへ。今回のスキーは私の思い描いたものにはならなかった。

私がスキーを始めた頃は、すぐにスキルを身につけ、スキー板を履くとあっという間に消えていた。しかし、私のおなかから生まれた娘であっても同じではなかったようだ。

親子であっても別の人間。それぞれに得意なことや苦手なことがある。今までも分かっていたつもりだったが、今回は改めてそのことを感じた。

娘に教えるばかりではなく、私も一緒に成長した時間だった。次回は彼女のペースを考え、私も一回り成長した声かけをすることが課題だ。そして、今感じている「出来なかった」を「出来た」に変えてあげたい。彼女の幼少期の「楽しい思い出」にすることを目標に、次のチャンスを狙っている。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)

潮田玲子さん家族、姉家族と一緒に笑顔の筆者(後列左から2人目)
潮田玲子さん家族、姉家族と一緒に笑顔の筆者(後列左から2人目)