スケートボードの日本選手権が行われた。東京オリンピック(五輪)効果なのだろう、19年に新潟・村上市で行われた時以上の報道陣。競技を見守るファンの数も多く、隣接するスペースではスケートチャンスボード教室も行われた。大会は盛り上がった。

ストリート女子では12歳の赤間凛音(りず)が14歳の西矢椛(もみじ)を抑えて優勝。パーク女子でも13歳の草木ひなのが日本一に輝いた。パークコンディション不良で決勝が行われなかったストリート男子は17歳の佐々木来夢(らいむ)が初の王座に就いた。

残念だったのは、東京五輪代表の多くが出場しなかったこと。10人の代表のうち、出場は西矢とストリート男子の白井空良(そら)だけ。8人は欠場した。

すでに北京五輪に向けてスノーボードのワールドカップ(W杯)に出場中の平野歩夢の他にも、ストリート男子の堀米雄斗、パーク女子の四十住さくらの金メダリストもエントリーせず。日本一を決める場に立った世界一の選手は西矢だけだった。

もっとも、これは予想されたこと。スケートボードの世界では「日本一を目指す」考えが希薄。小さな子どもも「世界での活躍」を目指すからだ。日本選手権は世界キップ獲得のための大会。世界に出るための資格を得る大会なのだ。

今大会は来年の杭州アジア大会代表と強化指定選手の選考会を兼ねる。世界を目指す選手たちにアジア大会の魅力はないかもしれないが、強化指定選手として海外の試合に出られるのは大きい。まだ大会の意味も分からない子どもたちは、親や周囲から「勝てば海外に行けるぞ」と言われて出場しているはずだ。

強化指定選手になれば、ワールドスケートジャパンが派遣する海外遠征でサポートが受けられる。今大会優勝者(強化指定S)には100%、2位と3位(同A)は75%、4位と5位(同B)には50%の費用が出る。海外遠征の多い競技だけに、これは大きい。

さらに大きいのは、日本代表として国際大会に出場できること。以前の大会は「招待」が基本だった。ストリートリーグ(SLS)やXゲームなどに出るためには小さな大会で結果を残し、認められる必要があった。堀米も、そうやって一歩ずつ世界に出て言った。

ところが、五輪でSLSなどのプロツアーがオープン化し、国の代表として参加する道が開けた。世界での実績がなくても、日本で勝てば日本代表として世界に出ていける。日本選手権は、世界への最短ルートを獲得できる大会なのだ。

日本代表の西川隆監督は「それぞれの選手で事情は異なるから」と五輪代表選手の欠場に理解を示した。世界キップを争う大会で、すでに実績のある堀米らが出る大会ではないのだ。

これまでも日本のローティーンのレベルは世界的だったが、出ていく機会がなかった。日本代表として世界に出るチャンスさえあれば、次々と世界で活躍する選手は出てくる。

ストリート女子で優勝した赤間は2年前の日本選手権でも2位だったが、決勝進出者の顔ぶれは大きく変わった。パーク女子も同じだ。ローティーンの活躍するスケートボード、特に女子は選手の入れ替えも激しい。この日金メダリストの貫禄をみせていた西矢にとっても、連覇への道は決して平たんではない。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)

囲み取材で笑顔を見せる2位の西矢(左)。右は優勝の赤間(2021年12月11日撮影)
囲み取材で笑顔を見せる2位の西矢(左)。右は優勝の赤間(2021年12月11日撮影)