世界選手権が終わった。

今年は中国・杭州アジア大会が延期となり、夏のシニアの国際大会は、この世界選手権で終了した。

若い選手が活躍する中、日本勢はベテラン選手と初代表の選手が力を合わせ、自身のパフォーマンスを大いに発揮したと思う。

今年はオリンピックの翌年であり、休息の年として参加しない選手も少なくはない。

私も経験者だが、オリンピック翌年は心に大きな穴が開いたように、次へのやる気がなかなか湧いてこない。その中でも時間は待ってくれず、代表選考会が来て、夏の国際大会が始まるのだ。

そんな中での日本勢のメダル数4というのは、日本人らしく準備を怠らず得たチャンスをものにした、ということで高く評価できるのではないかと考える。

青木玲緒樹(2021年10月17日撮影)
青木玲緒樹(2021年10月17日撮影)

今回は思い入れのある、平泳ぎの青木玲緒樹選手と、個人メドレーの大橋悠依選手について少し語りたい。

彼女たちが初代表として、私と一緒に行った遠征が、2017年のブダペストでの世界選手権だ。

青木選手は現役時代、同じ環境で練習をしていたが、彼女は練習でできていることが、なかなか試合で発揮できずに悩み、昨夏の東京五輪でも悔しい思いをした。

今回の予選を見た時「またかも…」と思った。

青木選手は緊張しすぎて自分が何をしていたか、わからない、普段のようにリラックスして泳げない、ということが試合でよくある。そのことについて現役中もたくさん話し、解決をしてきた。しかし、100メートル平泳ぎの予選レースではぎりぎりの16位で通過。危ない…という印象だった。

しかし準決勝では見事に全体5位で決勝に進出。タイムも上げて、緊張する場面で予選の修正をきちんとやり遂げた。決勝でも5位。本人は過去に4位(19年世界選手権韓国大会)という成績を収めていて、悔しい気持ちがあるだろう。しかし私には、自分に打ち勝った立派な5位だと、彼女の成長を感じた。

世界水泳女子100m平泳ぎに出場した青木(ロイター)
世界水泳女子100m平泳ぎに出場した青木(ロイター)
世界水泳女子400m個人メドレーで5位となった大橋(ロイター)
世界水泳女子400m個人メドレーで5位となった大橋(ロイター)

また、大橋悠依選手は昨年の東京五輪で個人メドレー2冠をして、今年は追われる側としてのレースとなった。彼女は精神面が非常に強く、自分の理想とする動きの再現性にたけている。

そんな彼女も今シーズンは少し苦しんでいる様子で200メートル個人メドレーでは準決勝で敗退した。しかし400メートル個人メドレーでは何かを吹っ切ったようにいつもの落ち着いたレースで決勝に残った。

少しでもタイムをあげるという、普段の大橋選手なら当たり前に成し遂げていることを決勝レースの目標に掲げて、泳いだ。

結果(5位)は本人の望む結果だったかはわからないが、1つ1つの動作にいろんな感情が詰まる中、自分と向き合い、自分の納得いくように自身をコントロールし、今年のシーズンを乗り越えた彼女に、私は涙が出た。

ドラマは18人の代表選手それぞれにある。

華やかな舞台に立つ選手を周りはうらやましく思うが、それぞれにプレッシャー、期待、メンタルの維持…と戦っているものがあり、水泳で起きるさまざまな問題に真正面から選手たちは向き合って戦っているのだ。

結果だけ見がちだが、結果以上のものが水泳にはある。私も水泳で得た全ての出来事が今の人生の軸だ。

選手としてのパフォーマンスはもちろんだが、いろいろな局面で自身の踏ん張りどころを乗り越える選手が魅力的だ、とあらためて感じた。

18人の選手、お疲れさまでした!

大橋悠依(22年1月23日撮影)
大橋悠依(22年1月23日撮影)

◆清水咲子(しみず・さきこ)1992年(平4)4月20日、栃木県生まれ。作新学院高-日体大-ミキハウス。本職は400メートル個人メドレー。14年日本選手権初優勝。16年リオデジャネイロ五輪は準決勝で日本新の4分34秒66をマーク。決勝に進出して8位入賞。17年世界選手権は5位に入った。21年4月の日本選手権をもって現役引退した。今後はトップ選手を育てる指導者を目指し、4月からは日体大大学院に進学。同時に水泳部競泳ブロック監督も務める。