18年3月に日本サッカー協会(JFA)の専務理事に就任した須原清貴氏(53)。現職に至るまで、キンコーズ・ジャパン代表取締役兼CEO、ベルリッツ・ジャパン代表取締役社長、ドミノ・ピザ・ジャパン代表取締役兼COOなど、名だたる企業のトップを歴任してきた経営のプロフェッショナルだ。

就任から約1年半、「組織づくり」という点に着目し、これまでの成果とJFAが抱える今後の課題を聞いた。

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前編ではこれまでの成果に焦点を当てたが、半面、達成に至っていない課題もある。その1つが「評価の仕組みの確立」だ。

英会話、ピザ、コピー。須原氏の経歴をたどると「サービス業」という共通項が見えてくる。須原氏はこのサービス業において、最も重要なものは「サービス」そのものではなく、それを提供する「人」だと主張する。

顧客がもう1度そのサービスを利用したいと思うための、必要十分条件を考える。必要条件は言うまでもなく「サービスの質」。取得できる英語のレベル、ピザのおいしさ、コピー物の品質などだ。一方で十分条件は「サービスを提供する質」。言い換えれば、顧客とサービスの間に立つ人の質、接客の質なのだ。

この「接客」の質を高めるためには、従業員に対する評価が適正かつフェアである必要がある。どんなに良い接客をしても、評価、ひいては給料に反映されなければ、よほどの善人でもない限り、従業員のモチベーションは下がる一方だ。

須原氏は、JFAの仕事も「サービス業」だと考えている。さまざまな人に、さまざまな角度から、サッカーを楽しんでもらうための「サービス」を提供している、というのだ。制度や施設、観戦環境、育成組織など、全てはJFAで働く「人」が提供している。この人たちの評価の仕組みを確立させることが、彼らのパフォーマンス向上につながると考えている。

現在JFAでは、キリンから出向している藤川宏人事部長が、この評価の仕組みを構築している最中だという。導入を検討しているのは、立場に関係なく互いの仕事を評価し合う「360度アセスメント」や、現在1年に1度の人事評価に3カ月ごとの「中間フィードバック」を設けることなど。タイムリーかつフェアな評価軸の設定が、JFAで働く1人1人のパフォーマンス向上につながるはずだ。

ピザとサッカー。一見なんの関連もなさそうな2つも、須原氏の目を通せば共通項が浮かんでくる。経営のプロフェッショナルのサッカー界での挑戦は、これからも続いていく。(おわり)【杉山理紗】


◆須原清貴(すはら・きよたか)1966年(昭41)6月18日生まれ、岐阜県出身。慶応義塾大学法学部法律学科を卒業後、91年に住友商事へ就職。00年に米ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。01年ボストン・コンサルティンググループに転職しコンサルタントを務め、03年1月にはCFOカレッジを設立、同代表取締役社長に就任。その後、GABA取締役副社長兼COO、キンコーズ・ジャパン代表取締役社長兼CEO、ベルリッツ・ジャパン代表取締役社長、ドミノ・ピザ・ジャパン代表取締役兼COOを歴任した後、18年3月から現職。息子の影響でサッカーに興味を持ち、現在3級審判員資格を保有している。