フィギュアスケート女子で17年4大陸選手権優勝の三原舞依(21=シスメックス)が、強くなって帰ってきた。

11月28日、2季ぶり出場となったグランプリ(GP)シリーズのNHK杯フリー。会場の大阪・東和薬品ラクタブドームに、収容人数の上限50%と感じさせない観客の拍手が響いた。

演技終盤。ステップを踏みながら、三原は泣いた。

「すごくウルウルとしていて、最後の方は前が見えなかったです。観客の皆さまの拍手が、音楽よりも大きな音で聞こえました」

フリー3位の131・32点を記録し、合計194・73点の4位。体調不良で昨季は全試合欠場となったが、再びきらびやかな世界に戻ってきた。1年間の“空白”を感じさせない順位はもちろん、自らに最も求めてきた「強さ」を感じた。

「まだ多分『普通の人』だと思う。しっかりとした『アスリート』になっていきたいんです。体力面も精神面も、強い選手になりたいです」

そんな言葉を聞いたのは2年前。18年10月に行われた小さな競技会での演技後だった。曲想にとけ込ませた柔らかな滑り、演技直後でも丁寧な言葉遣いで応じるインタビュー。そんな姿が真っ先に思い浮かぶ一方で、三原は自らへのハードルを高く設定してきた。だからこそ、理想と結果のわずかなずれにも敏感で、その分、苦しむ時もあった。

「どの大会でも4位になることが多くて…。4位と3位の違いは、死ぬほど分かっているんです。自分が満足していたとしても、何かが足りていないから、その順位であり、点数になっている。良かった選手、点数が出た選手は、私に足りないものを持っています。心から『おめでとう』と思いますし、なおかつ、悔しさもあります」

昨年4月下旬、そう語っていた三原の演技が、夏以降は見られなくなった。

休養期間中もぶれなかったのは「志」だった。リンクへ出向いても、滑ることができなかった日もあったという。心身のバランスに悩む日々が続いても、1度決めたことは貫いてきた。

20年1月には自らの髪をバッサリと切った。気分転換ではない。人生2度目の「ヘアドネーション」だった。2年前の18年4月にも髪を31センチ切り、脱毛症や乏毛症、小児がんなどの治療で頭髪の悩みを抱える人たちへ、寄付された髪で作られたウイッグを贈る活動に貢献した。1度きりではなく、その後もバランスの微調整以外に髪を切らない生活を続けていたという。

約1年7カ月ぶりの競技会復帰を果たした10月、三原は穏やかに笑っていた。

「春に比べると、ちょっと髪の毛が伸びてきているので、冬に向けてはちょっと暖かくなるかな…って思っています」

初めて実施した際には「1人の方の心を救えたら…。いろいろな方に支えてもらってきたので『その恩返しが誰かに届けばいいな』と思います」と口にした。2度目のヘアドネーションを終え、再びこう言った。

「髪の毛を切れる長さに到達した時は、1回目も2回目もすごくうれしくて『やっと寄付できる』って思いました。1回目と思いは同じです。『少しでも貢献できれば…』と思っているので、これから先も、ずっとしていくつもりです」

ぶれないのはスケートに対する姿勢も同じだった。以前と比べると筋肉量、体力が落ちたと自覚する。陰での努力を多く語ろうとしない性格は変わらないが、復帰後の懸命な姿勢は毎試合の進化で示されていた。

復帰戦となった10月の近畿選手権後には「元の構成に追いつきたい」と語った。NHK杯のフリー。わずか1カ月半で言葉通りに2季前と同レベルにまで戻した。演技後半の3連続ジャンプなど、大きなミス無く7つのジャンプをそろえた。4カ月前の合宿でループ、サルコーの単発までだった3回転ジャンプを、しっかりと仕上げてきていた。

4分間の演技には「強さ」がにじんだ。それは「普通の人」に見えなかった。

涙を流した演技後。ファンへ感謝を口にし、今度は自らにハードルを課した。

「まだまだショートプログラムもフリーも、順位を誰かと競うレベルまで達していません。今回の経験で『5歩ぐらい前に進めた』と先生とも話したので、それを信じて(12月の)全日本選手権で、もう1歩進めるようにしたいです」

「強さ」を追い求める旅は続いていく。【松本航】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは西日本の五輪競技やラグビーが中心。18年ピョンチャン(平昌)五輪ではフィギュアスケートとショートトラックを担当し、19年ラグビーW杯日本大会も取材。

11月28日、NHK杯女子フリーで演技を終え感極まった様子の三原舞依(代表撮影)
11月28日、NHK杯女子フリーで演技を終え感極まった様子の三原舞依(代表撮影)