“父の教え”は忠実に守っている。
「ティーグラウンドでアゲンスト(の風)が強いと感じても、上空は違う風が吹くことがある」
「グリーン上では目の錯覚に気をつけた方がいい」
名門の日大ゴルフ部に在籍する清水大雅(21)の父・重憲さん(48)は、ゴルフ界では名の知れた名キャディーである。
田中秀道や谷口徹、女子では上田桃子、賞金女王時代のイ・ボミらを支えた。近年も有力プロのバッグを担ぎ、昨年10月の国内女子ツアー、マスターズGCレディースでは古江彩佳の優勝に貢献した。
1人息子の大雅は、ちょうど3年前に人生の転機を迎える。
あの夏、甲子園にいた。
春夏連続出場の履正社(大阪)は、勝ち進んだ。
準々決勝で関東第一を破り、中1日で迎えた準決勝は明石商を7-1の大差で勝って決勝戦へ進出する。
「決勝は星稜でした。春の選抜で1回戦で負けた相手です。リベンジを果たして、夏の甲子園で頂点に立ちました。日本一になるだけのチーム。すごくレベルが高かったです」
メンバー表に彼の名はない。甲子園にはいても、アルプス席であり、その土を踏むことはかなわなかった。
チームが日本一になると、野球を辞める決心をする。大阪八尾ボーイズでは投手。もしかすれば、全国制覇する履正社でなければ、中心選手として活躍していたかも知れない。
決断は早かった。
「甲子園が終わってすぐです。ゴルフを始めたのは。このまま野球を続けるのかを考えました。続けたとしても、大学の4年間で辞める選手がほとんど。それならば、ゴルフの方が可能性が広がるのではないかと思いました。お父さんがゴルフの仕事をしているので、いいタイミングだと思いました」
以来、父子は二人三脚で夢を追うようになる。
「小学校、中学校の頃、野球をやっていた時は怖かったです。自主練習をサボっていると、『素振りをせんでいいんか?』とよく叱られました。お父さんの仕事や、ゴルフ界で活躍していることは小さい頃から分かっていたのですが、具体的なことは知らなくて。ゴルフを始めてからですね。詳しく知るようになったのは」
ティーグラウンドに立つ。体で感じる風がある。直感的にそれが正しい風向きだと考えるのが自然だろう。ただ、キャディーとして、多くのプロの優勝に立ち会ってきた父・重憲さんの教えは違う。
「天気予報を大事にしているので、ラウンド前には必ずチェックしています。アゲンストだと体が感じても、風が木にあたって変化することもあるので、上空はフォローだったりする。天気予報の風の向きはどうだったか? を常に頭に入れています。グリーン上ではスライスに見えても、芝目が右からきているとスライスしない。特にコース全体の土地が傾いている時もあるので、目の錯覚には気をつけた方がいいと言われています」
7月25、26日に兵庫・よみうりカントリークラブで行われた日刊アマ・全日本シングルプレーヤーズ選手権関西大会。ゴルフを始めてちょうど3年となる大雅は初日、最終日とも73で回り5位で全日本大会(10月27~28日、石川・片山津GC白山C)進出を決めた。
「目指してはいますが、まだまだ『プロになりたい』と口にするレベルではありません。日大にはプロ並みの選手がいる。そこに追いつけるように、努力を続けていきたいと思います」
目標を問うと、真っすぐ視線でそう答えた。
クラブハウスの片隅。椅子に腰を下ろした彼は、両手を膝の上に乗せていた。その礼儀正しい姿を見れば、厳しく育てられてきたことをうかがい知ることができる。
高校時代、日本一になった強豪校で何とかメンバーに入ろうと努力を重ね、それでも届かなかった経験があるからこそ、安易に「プロになりたい」とは言わなかった。
進む道はおそらく、これまで歩んできた道と同じように簡単ではないだろう。
ただ、いつの日か。彼がプロになり、活躍するのを楽しみにしている。【益子浩一】
◆清水大雅(しみず・たいが)2001年(平13)5月17日、大阪・八尾市生まれ。小4から野球を始める。投手で、大阪八尾ボーイズから履正社へ。日大ではゴルフ部。173センチ、61キロ。



