<愛知・名古屋アジア大会:陸上>◇23日◇男子ハーフマラソン競歩◇愛知県庁・名古屋市役所周辺コース
眠気を吹き飛ばされるほど驚いた。
23日に行われた愛知・名古屋アジア大会陸上男子ハーフマラソン競歩のメダリスト会見。午前7時半スタートの後で連日の疲れがたまり、記者に眠気が押し寄せていた時だった。
銅を獲得した韓国の崔炳光(チェ・ビョングァン、35)が冒頭から日本語で話し出した。司会者から英語でレースの感想を求められると、急に「皆さん、こんにちは!」とマイクを握ってあいさつした。
「みんな知っていると思いますが、銅メダリストがやっぱり一番楽しいです!」。結果は3着でも、満面の笑みで声を弾ませた。
そのシーンに記者も驚き、思わず笑ってしまった。
通常、大規模な国際大会の会見になると、言語は英語で進行され、記者たちは大会専用の翻訳機やアプリを使って母国語の通訳を介してやりとりすることがある。
しかしこの日、崔は会場にいた日本の報道陣に直接喜びの思いを伝えていた。
日本在住の経験があったのではないかと思うほどの流暢(りゅうちょう)な日本語。通訳アプリを使っていた記者はイヤホンを外し、彼の言葉に耳を傾けた。すると、謙虚な姿勢で今回のレースに臨む思いを口にしていた。
「正直、今日はメダルのことは考えていなかったのですが、日本や中国の世界レベルの選手たちと一緒に歩くにあたって、今日の自分のランキングは5位か4位くらいかなと考えていました。なので正直、今日の銅メダルは私にとってラッキーでした。自分の人生がラッキーじゃないかなと思う(笑い)」。
自身のラッキー・ボーイぶりを表現する発言に会場では笑いも起きた。
世界陸連のホームページ内にあるプロフィルによると、これまで崔は札幌実施となった21年東京オリンピック(五輪)や全日本能美、高畠、元旦競歩と日本のレースにも多数出場していた。
韓国の競歩界を引っ張ってきたベテランウォーカーは、32年ぶりに日本開催となったアジア最高峰の祭典に特別な思いがあった。
「今日のアジア大会のメダルは、自分にとって最後のメダルだと思っています。この大会が最後になるんじゃないかと思っていましたが、とにかく最後までに頑張りました」。
アウェーでのレースとはいえ、日本の沿道の声援も力に変えていた。
「東京五輪は本当にびっくりしました。日本人の応援やエネルギーがすごかったです。だから今日は日本人や会場の皆さま、本当にありがとうございました。本当にうれしいです」。
どうして、そこまで日本語が上手なのか-。
記者は疑問に思った。すると、別の記者から同じ質問が飛び出すと、こんな過去を明かした。
「中学生の頃から日本のドラマやアニメ、TV番組が全部大好きでした。それで一人で独学で勉強しました」。本人は「まだ日本語のレベルが子供レベルなので…」と謙遜するが、度々記者たちを驚かせた。
最後には「日本の連盟の皆さまや記者さん、皆様の応援に感謝しています。ありがとうございました」と感謝も伝えていた。
会見の終了時刻も迫り、今回の日本語での会見の真意まではたどり着けなかった。しかし、会見中に「この大会が最後」と話したように崔の歩きは競技生活を支えてくれた日本への感謝を示すものだったのかもしれない。
今大会の期間中は国歌の取り違えや宿泊、輸送のトラブルが起きている。
メダルの色や記録ばかりに注目が集まるが、現場で見える景色はそれだけではない。
思いは白か黒ではなく、十人十色。人生をまるごと競技に注ぎ込むアジアのトップアスリートたちが「伝えたい、見せたい」生き様やメッセージだってある。
だからこそ、全力で支えていかなければならない。それは伝える者も同じ。改めて肝に銘じたシーンとなった。【泉光太郎】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)



