<全国高校バスケット選抜優勝大会:福島商66-65近大付>◇男子1回戦◇23日◇東京体育館

 男子のオープニングゲームで、3年ぶり2回目出場の福島商が、劇的勝利を収めた。最大15点差あったが終盤に猛追。試合終了間際に、水野慎也監督(41)の長男のSG優斗(2年)が逆転の3点シュートを決め、近大付(大阪)を下した。

 第4クオーターの残り3秒を切っていた。2点差。コート中央でパスを受けたSG水野の視線の先で、大黒柱のPG山岸玲太(3年)はガッチリとマークされている。打つしかなかった。手からボールが離れた直後、試合終了のブザーが鳴った。高い放物線は、リングの内側を通過した。66-65。「俺か、という感じで。うれしくて仕方なかった」(水野)。割れんばかりの大歓声の中、涙が止まらなかった。

 水野にとって監督は、最高のおやじであり、最高の指導者。「尊敬してるし、自分もバスケットを教えられるようになりたい」と高校進学時も迷いはなかった。3年前の初出場時は初戦敗退。当時中学生だった水野は「ここでやって勝つイメージしかなかった」と、観客席で心躍らせていた。

 学校でも、家でもバスケットのことで怒られる。「下宿先のつもりでやれ」と言われ、会話がない時期もあった。でも、全て自分の成長のためだと知っている。福島三中に通っていたが、96年度大会で福島工を準優勝に導いた穴沢睦雄氏がコーチを務めていた清水中に転校した。「穴沢先生に教えてもらうためだけに、近くに家を建てた」と水野監督。試合後は、「ウチの息子すげーなと。もう追い越されたかもしれない」と、監督から父親の顔となって笑った。

 今夏のインターハイは、2回戦で新潟商に75-76で敗戦。逆転負けのきっかけを作ってしまった水野は、満足していない。「やっと先輩に恩返しできたかもしれないけど、次がある。できることをやって勝ちたい」。孝行息子の熱い冬は、まだ終わらない。【今井恵太】