<高校総体:競泳>◇18日◇男子100メートル背泳ぎ決勝ほか◇新潟・長岡市ダイエープロビスフェニックスプール

 「萩野効果」に沸く高校水泳界に、また超新星が現れた。男子100メートル背泳ぎで、川本武史(17=豊川)が54秒64の好タイムをマークして優勝。ロンドン五輪でメダル3個を獲得した入江陵介(22)の持つ高校記録に0秒04と迫った。入江が華麗な王子なら、川本は粗削りな暴れ馬。五輪での日本選手の活躍に刺激を受けながらも「金メダルじゃなきゃ」と言ってのける強心臓で、打倒ロクテに名乗りを上げた。

 好タイムが表示される電光掲示板を見て、川本はこぶしで思い切り水をたたいた。目標の53秒台はもちろん、入江の高校記録にも届かず。「優勝できてホッとしているけど、狙っていたのは高校新だったので」と笑顔も見せずに言った。高校時代の入江まで、0秒04、距離にして7センチ。「悔しいですねえ。あと少しだったんで」と話した。

 「ラスト15メートルで泳ぎが暴れた」と振り返った。深田大貴コーチ(41)は「入学当時は全力でガツガツいくだけ。世界で戦うために粗さを消すことを考えた」という。しかし、この日はラストで粗さが出た。6月の大会で、ゴールタッチした時に右手小指を骨折した。泳ぎの粗さを示すエピソードだが、1日も練習を休まずギプスをして泳いだ。

 背泳ぎ向きの流線形の体を持つスマートな入江に対して、バタフライもこなすパワー型の川本。「センスでは負けるけど、努力で補えるはず」と、がむしゃらな練習で記録を伸ばしてきた。理学療法士の兄雄太さん(22)とマンツーマンでトレーニング。深田コーチは「しんが強く、目標に向かって黙々と練習するところがすごい」と話した。

 ロンドン五輪はテレビ観戦。萩野の銅メダルは「同じ高校生として、すごいと思う」と言ったが、入江のメダルには「金じゃないから」と素っ気ない。まだ入江の日本記録(52秒24)には差があるが、今年中には53秒台を出し、射程圏にするつもり。「一番強い人しか金メダルはとれない。目標はロクテ(米国の五輪金メダリスト)超えです」。川本は真剣な表情で言ってのけた。【荻島弘一】

 ◆川本武史(かわもと・たけし)1995年(平7)2月19日、愛知県瀬戸市生まれ。兄の影響で3歳から名鉄スイミングスクールで水泳を始め、10歳から背泳ぎ専念。瀬戸南山中3年の時に全国中学大会背泳ぎ2冠、11、12年高校総体100メートル背泳ぎ優勝。174センチ、75キロ。